DX推進の課題は、経営、人材、システム、実行、ベンダー依存の5類型に分けると整理でき、類型ごとに打つべき手が変わります。ただし類型を知っただけでは手が動きません。全社の課題を業務単位に落とし、どの業務のどの工程で止まっているかを書き出すと、AIで直接解ける課題と、体制や意思決定で解く課題が分かれます。そのうえで最初に着手する業務を1つ選び、目的の設定から評価と改善までを回す順に進めます。

DX推進の課題は5つの類型に分かれる

DXが進まない理由として挙がるものは多く見えますが、止まっている場所で分けると5つに収まります。自社の状況がどれに当たるかを先に見ておくと、後の棚卸しで何を探せばよいかが決まります。

類型 止まっている状態 主に解く手段
経営 何のためにDXをするかが決まっていない。予算の枠と決裁者が無い 経営の意思決定
人材 推進する人が足りない。いても業務とITの両方を分かる人がいない 育成と体制づくり
システム 古い基幹システムが改修できず、データを取り出せない 刷新や連携の設計
実行 検証までは進むが本番に乗らない。入れても工数が減らない 業務の設計と効果測定
ベンダー依存 外注先に任せきりで、社内に仕組みを説明できる人がいない 内製の範囲を決める

表の右列が、そのままAIで解けるかどうかの見当になります。AIが直接効くのは実行の類型の一部と、人材の類型のうち処理量の不足にあたる部分です。残りは、AIを入れる前に人が決めることです。

DX推進でよく挙がる課題と解決策の対応表

社内で「DXが進まない理由」として挙がる言葉は、だいたい次の5つです。それぞれが5類型のどれに当たり、最初に何をすれば動き出すかを1対1で並べます。

よく挙がる課題 当たる類型 解決策(最初にやること)
推進する人材が足りない 人材 業務ごとに何ができる人が何人要るかを決め、育てる人と外に頼む作業を分ける
DXで何を目指すか(ビジョン)が無い 経営 経営が「どの業務の何を、いつまでにどう変えるか」を1文で決め、決裁者を置く
古い基幹システム(レガシー)が重い システム 仕様を説明できる人と保守契約の更新時期を確かめ、連携で済ますか刷新するかを決める
DXの重要性が全社で共有されていない 経営 最初の1業務で減った作業時間を数字で示し、経営の言葉で社内に報告する
投資の予算が取れない 経営 金額の大きい全社計画から入らず、効果を測れる1業務の費用だけを先に通す

5つのうち3つが経営の類型に入ります。予算も共有も目標も、経営が決めない限り現場の工夫では埋まりません。人材とシステムの課題は時間がかかるため、経営の課題を片付けながら並行して手を付けるのが現実的です。

公的な調査では、どこで止まっているとされているか

IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」では、日本企業の8割超がDXを推進する人材の量が不足していると答えています(2025年2〜3月調査、日本1,535社)。同じ調査で、DXの成果が出ているかという問いに「わからない」と答えた割合は日本が26.2%で、米国とドイツの5〜6%と大きく差があります。成果を測る指標を設定している日本企業は3割以下でした。業務プロセスの最適化では、日本は個別業務の最適化に取り組む割合が高く、全社最適化に取り組む米国やドイツと傾向が分かれています。

「DX動向2024」を分析したIPAのディスカッション・ペーパーでは、業務の効率化では過半数の企業で成果が出ている一方、ビジネスモデルの変革のような本格的な成果が出ている企業は約2割にとどまるとしています。同じ資料は、経済産業省のDXレポート(2018年)が、老朽化しブラックボックス化した既存システムが残った場合の経済損失を2025年以降に最大12兆円/年と見込み、これを「2025年の崖」と呼んだことにも触れています。

数字を並べると、人材とシステムの課題が目立ちます。一方で**「成果がわからない」「指標が無い」は、測り方を決めれば手が打てる部分です**。

課題を業務単位に落として棚卸しする

「人材が足りない」「レガシーが重い」という全社の言葉のままでは、打ち手が予算の話にしかなりません。業務ごとに、どの工程で何が止まっているかまで下ろすと、同じ人材不足でも「件数が多すぎて手が回らない」のか「判断できる人が1人しかいない」のかが分かれ、打ち手が変わります。

全社のDXの課題を業務単位に落として打ち手を分ける流れ 業務を列挙し、工程ごとに止まっている箇所を書き出して5類型に振り分ける。処理量や転記の課題はAIで処理し、決裁や体制の課題は人が決める。両方を見たうえで最初の1業務を選ぶ。 整理する、機械が処理する 人が判断する 1. 業務を列挙 2. 止まる工程を特定 3. 5類型に振り分け AIで処理する課題 4. 最初の1業務を選ぶ 体制と決裁で解く課題 件数と担当者を添える 待ち、転記、照合、承認 表の類型に当てる 処理量、転記、照合 目的、予算、権限、人 両方の見通しが立つもの
業務ごとに止まっている工程を書き出すと、AIで処理する課題と人が決める課題が分かれ、最初の1業務はその両方の見通しが立つものから選べます。

手順は次の4段です。

  1. 業務を列挙する。部署名ではなく「請求書を受け取って会計に登録する」のように、始まりと終わりが分かる単位で書きます。月あたりの件数と担当者の人数を添えます
  2. 止まる工程を特定する。各業務を工程に分け、待ちが長い工程、手で転記している工程、別の資料と照合している工程、承認で滞る工程に印を付けます
  3. 5類型に振り分ける。印を付けた工程ごとに、止まっている理由が上の表のどの類型に当たるかを書きます
  4. 最初の1業務を選ぶ。後の節で示す基準で、着手する業務を1つに絞ります

3で1つの工程に複数の類型が混ざるのは普通なので、無理に1つへ絞らず、当たるものをすべて書いておきます。

AIで解ける課題と、解けない課題の見分け方

棚卸しで印を付けた工程を、AIで直接解けるものと、そうでないものに分けます。見分ける手がかりは、止まっている理由が「作業の量」なのか「決める人や決まりの不在」なのかです。

止まっている理由 AIで直接解けるか 打ち手
件数が多く、手が回らない 解ける 定型部分を機械に処理させ、人は確認に回る
書類やメールから別のシステムへ転記している 解ける 読み取りと入力を機械に任せる
2つの資料や台帳を突き合わせている 解ける 一致するものを機械が消し、不一致だけ人が見る
判断の基準が担当者の頭の中にしかない そのままでは解けない 先に基準を文書にし、そのあと機械化を検討する
何のためにやるか、誰が決めるかが決まっていない 解けない 経営が目的と決裁者を決める
古いシステムからデータを取り出せない 解けない 連携の方式か刷新の要否を決める
外注先しか仕組みを説明できない 解けない 社内に持つ範囲を決め、引き継ぐ

上の3行は、処理のルールが言葉にでき、件数が多い工程です。ここはAIや通常のプログラムに渡すと、人の作業時間が減ります。4行目は境目にあたり、基準を書き出す作業を先にやれば機械化の候補になります。イレギュラーの割合が高い業務は、例外が月に何件あるかを先に数えてから判断してください。

下の3行は、AIを入れても変わりません。目的と決裁者が決まらないままAIを入れると、検証までは進んで本番で止まります。工程をどこまで機械に任せ、どこを人の承認に残すかを、導入の前に決めておきます。

経営の課題:DXの重要性が共有されず、成果指標も決まっていない

経営の類型は、何のためにDXをするか、予算と決裁者が決まっていない状態です。この類型に当たる会社では、次の2つの状態が重なって見つかることがよくあります。

全社で重要性が共有されないときは、どう手当てするか

社内報や研修で「DXは大切だ」と伝えても、現場は自分の業務がどう変わるのかが分からなければ動きません。共有されない原因は、伝え方より、変える対象が業務の名前で示されていないことにあります。

手当ては3つです。経営が「請求書の受け付けから会計への登録までを、半年で今の半分の時間にする」のように、変える業務と期限を具体的に示します。その業務の担当者を、やり方を決める段階から加えます。最初の業務で減った作業時間を、経営が自分の言葉で社内に報告します。1つの業務で結果が見えると、2業務目の担当者は説明を受ける前から何が起きるかを想像できます。

成果指標が決まっていないときは、何を測ればよいか

IPAの調査で成果を測る指標を持つ日本企業が少なかったのは、先に触れたとおりです。売上や利益のような全社の数字だけを指標にすると、変わったのがDXのおかげか、景気や価格改定のせいかを区別できません。指標は業務ごとに決め、全社の目標とどうつながるかを1文で書き添えます。

業務ごとの指標には、1件あたりの処理時間、月に処理できる件数、差し戻しや入力ミスの件数、受け付けから完了までの日数が使えます。どれを使うかを決めるのは経営で、始める前の値を記録しておくのが現場の仕事です。何か月後に数字を見て、続けるかやめるかを判断するのかも、このときに決めておきます。決めた指標で実際に効果を測る作業は、次の実行の類型に入ります。

実行の課題:PoCで止まる、入れても工数が減らない

検証で「動いた」のに本番へ進まない状態は、精度の問題ではなく、題材の選び方、運用の条件、決裁者の不在のどれかで起きることが多くあります。検証を始める前に、どの結果が出たら本番に進み、どの結果なら撤退するかを決めておくと、止まったまま時間が過ぎることを防げます。

本番に乗ったのに工数が減らない場合は、自動化の前にあった承認や二重チェックがそのまま残っていることを疑います。機械が処理した結果を人が全件見直していれば、作業が1つ増えただけです。確認は不一致や例外だけに絞り、残った承認の段を減らします。

IPAの調査で「成果がわからない」が多かったことも、この類型に入ります。導入前の作業時間を測っていなければ、後から効果は出せません。着手の前に1件あたりの処理時間と月の件数を記録しておきます。

ベンダー依存の課題:外注に任せきりで知見が残らない

外注そのものは問題ではありません。問題になるのは、仕様書や処理の設計が相手の手元にしか無く、社内の誰も仕組みを説明できない状態です。こうなると、改修のたびに同じ相手へ見積を依頼するしかなく、費用の妥当性も判断できません。

確かめる項目は3つです。成果物と設計書を自社が受け取れる契約になっているか、社内で仕組みを説明できる担当者がいるか、相手を替えた場合に引き継げる資料がそろっているか。どれかが欠けていれば、依存の類型に当たります。既に外注している開発を社内へ移す場合は、引き継ぐ資料の一覧を先に作ってから契約の更新時期に合わせて移します。

人材不足には、内製の範囲を絞って向き合う

人材の類型は、採用だけで埋めようとすると時間がかかります。IPAのディスカッション・ペーパーでは、必要な人材像や評価基準を持たない企業ほど人材不足が顕著だとしています。「DX人材」を一括りにせず、何ができる人が何人要るかを業務単位で決めることが先です。

内製化とは、業務の設計と運用の判断を社内に持ち、実装の一部を外部に任せる形も含めて、自社で仕組みを直せる状態を作ることです。すべてを社内で作る必要はありません。社内に置く工程と外に任せる工程を分け、動かすのに最低何人要るかを決めてから採用や育成の計画を立てます。

どこまで自社で持つかは、業務の設計、運用の判断、実装の3つに分けて決めると迷いにくくなります。

最初に着手する業務を1つ選ぶ

棚卸しの結果から、最初の1業務を選びます。見る順は次のとおりです。

  1. 止まっている工程が、AIで解ける課題(処理量、転記、照合)に当たる
  2. 月あたりの件数が多く、減った時間を数字で示せる
  3. その業務を変えてよいかを決める人が、名前で特定できている
  4. 古いシステムからのデータの取り出しが、手作業でも一応できる

1と2は効果の見通し、3と4は止まらずに進められるかの見通しです。4つを満たす業務が無ければ、3を満たすものを優先してください。効果が小さくても、決める人がいる業務は最後まで進み、その経験が2業務目の説得材料になります。

DX推進の進め方:目的設定から評価・改善までの6段階

課題の類型が分かり、最初の1業務が決まったら、次の順で進めます。1つの業務で最後まで回してから、2業務目に移ります。

  1. 目的を決める。経営が、変える業務と、いつまでにどう変えるかを1文で書き、決裁者と、何が測れたら成果とみなすかを決めます
  2. 今の状態を測る。棚卸しで印を付けた工程について、1件あたりの処理時間や月の件数を記録します。この値が、後で比べる基準になります
  3. 体制を決める。その業務を変えてよいかを決める人と、動かす担当者を名前で決めます。外に頼む作業があれば、成果物を受け取れる契約にします
  4. 範囲を限って試す。件数の一部や1つの拠点だけで新しいやり方を動かし、例外が月に何件出るかを数えます
  5. 評価する。2で記録した値と比べ、続けるか、直すか、やめるかを決裁者が決めます
  6. 直して広げる。試す中で出た例外や残った承認を直し、結果を社内に報告してから2業務目を選びます

評価の基準は、試す前に決めておきます。試した後に基準を決めると、出た結果に合わせて基準を選んでしまい、続けるかやめるかの判断が甘くなります。6で社内に報告する結果は、経営の課題で挙げた「重要性が共有されない」状態を解く材料にもなります。

まとめ:DX推進の課題は類型で当たりを付け、業務単位で解く

  • DX推進の課題は経営、人材、システム、実行、ベンダー依存の5類型に分けて当たりを付ける
  • 人材不足、ビジョン不在、レガシー、全社共有の不足、投資不足は、それぞれ最初にやることが違う
  • IPAの調査では人材の量の不足と、成果を測れていないことが目立つ
  • 重要性の共有は変える業務を名前で示して結果を報告し、成果指標は業務ごとに決める
  • 全社の言葉のままにせず、業務ごとに止まっている工程を書き出す
  • 処理量、転記、照合はAIで解ける。目的、決裁、データの取り出し、依存は人が決める
  • PoC止まりと工数が減らない問題は、題材と運用の条件、残った承認を先に疑う
  • 最初の1業務は、AIで解ける工程があり、決める人が特定できているものから選ぶ
  • 目的を決め、今の状態を測り、範囲を限って試し、試す前に決めた基準で評価して広げる

Augueでは、業務の棚卸しから最初の1業務の選定、AIエージェントの設計と社内への引き継ぎまでを、社内に仕組みが残る形で支援しています。ご興味がある方は是非ご相談ください。

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弊社では具体的な要件が固まっていない段階でも、無料相談で現状をお聞きしていますので、お困りの際はご相談ください。

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よくある質問

2025年を過ぎたので「2025年の崖」はもう関係ないのでしょうか?

期限が過ぎても、古いシステムが残っている限り問題は消えません。保守できる人が減り、仕様を知る人が退職し、改修の見積が年々上がるという形で、負担は毎年少しずつ積み上がります。見るべきは年号ではなく、自社の基幹システムについて仕様を説明できる人が何人残っているか、次の保守契約の更新がいつかの2点です。

中小企業や中堅企業でも、同じ5類型で整理してよいですか?

使えます。規模が小さいほど、経営と実行の距離が近いぶん経営の類型で止まることは減り、人材とベンダー依存の類型に課題が寄りやすくなります。担当者が1人しかいない場合は、棚卸しを全業務で行わず、件数の多い業務を3つほど選んで工程を書き出すところから始めると、止まっている箇所が早く見つかります。

DXとデジタル化(IT化)は何が違うのですか?

紙の書類を電子にする、手作業をツールに置き換えるといった取り組みはデジタル化で、DXの入口にあたります。DXは、その先で業務の進め方や顧客への価値の出し方まで変えることを指します。ただ、デジタル化が済んでいない業務でいきなり事業の変革を狙っても、データが無いため進みません。業務単位で見て、まずデジタル化で止まっている工程を片付ける順が現実的です。

DX推進の専任部署を作らないと、課題は解けませんか?

専任部署の有無より、業務ごとに誰が決めるのかが決まっているかのほうが効きます。専任部署を作っても、現場の業務を変える権限が無ければ提案を出すだけで終わります。まずは最初に着手する1業務について、変えてよいかを決める人と、動かす担当者を名前で決め、広げる段階で専任を置くかを判断する順が現実的です。