マニュアルに書かれているのは、順調に流れた場合の手順だけ
業務マニュアルを開くと、たいてい一本道の手順が並んでいます。書類を受け取り、内容を確認し、システムへ入力し、承認へ回す。この手順を読んで工数を見積もり、自動化の対象を決めると、ほぼ確実に外れます。
現場の時間が取られているのは、その一本道から外れた件です。必要な項目が空欄で届いた、前回と条件が違う、締めを過ぎてから訂正が来た、担当者が「これは特別扱い」と覚えている取引先だった。こうした件はマニュアルに載っていないので、業務フロー図にも現れません。ところが1件あたりの時間は標準の何倍もかかり、しかも他の人を巻き込みます。
対象業務を決める前に数えるのは、この外れた件の側です。順調に流れる手順の工数だけを見て自動化すると、速くなるのは元から速かった部分になります。
対象を決める前に数える4項目
数えるのは次の4つです。どれも1つの数字ではなく、業務ごとに持ちます。
| 数える項目 | どこから数えるか | 何を判断できるか |
|---|---|---|
| 標準の手順から外れる件の割合 | 一定期間の全件を母数に、差し戻しや修正、特別対応の記録がある件を数える | 自動化しても残る作業の量。割合が高い業務は対象の切り方を変える |
| 外れたとき誰が引き込まれるか | 例外1件あたりに関わった人の数と部署。問い合わせの宛先から数える | 削減時間の計上先。担当1人の時間だけを見ると実際の負荷を取り落とす |
| 例外1件あたりの所要時間 | 差し戻しから再提出までの記録、または担当への聞き取り | 例外に取られている合計時間。標準の手順の工数とは分けて持つ |
| 間違えたときの損失 | 過去に起きた誤りの是正にかかった費用や返金、謝罪の対応の記録 | 人の承認を残す範囲。金額の大きい例外は自動化の対象から外す |
4つのうち最初に効くのは3つ目です。割合が低くても1件あたりの時間が長ければ、合計では例外の側が支配的になります。逆に、割合が高くても1件あたりが数分で終わる例外は、標準の手順を自動化するだけで全体が動きます。割合だけを見て「例外が多いから対象外」と決めると、この差が見えません。
4つ目は数字が出ないことがあります。過去の誤りが記録として残っていない業務は珍しくないためです。その場合は金額を推測せず、「起きたら金額の確定に影響するか」「社外に届くか」の2つだけを○×で持ちます。推測した金額を根拠に人の承認を外すと、外した理由が後から検証できなくなります。
伝票と問い合わせの記録から数える手順
数える材料は、たいてい既にある記録の中にあります。新しく計測の仕組みを作る前に、次の順で当たります。
1. 母数を決める。 直近の3か月から6か月で、その業務が受け付けた全件を数えます。月単位で件数が大きく振れる業務(月初・月末に寄る、決算期に増える)は、少なくとも1つの繁忙期を含めます。閑散期だけを見ると、例外の割合が実際より低く出ます。
2. 差し戻しと訂正の記録を拾う。 承認ワークフロー、経費精算、受発注のシステムがあれば、差し戻しや却下、修正のフラグが履歴に残っています。同じ件が2回以上処理されている記録も同じ扱いにします。ここまでで、システムを通った例外は数え終わります。
3. 問い合わせの記録から、システムを通らない例外を拾う。 担当部署に届くメールやチャットのうち、「この件はどう処理すればよいか」という照会が例外です。件名や本文に含まれる語で機械的に絞ってから、1件ずつ振り分けます。ここは自動では分類しきれないので、100件程度を人が読んで分類の型を決め、残りをその型に当てます。
4. 担当者の手元にしか無い例外を聞き取る。 記録に残らない例外がここに来ます。「毎回この取引先だけ別のファイルで処理している」「システムに入れる前に電話で確認している」といった処理は、担当者に聞かないと出てきません。1業務あたり30分の聞き取りで、聞くのは「先週この業務でマニュアル通りに進まなかった件は何件で、どれに時間を使ったか」の1問だけで足ります。
5. 例外の理由でまとめる。 拾った例外に理由のラベルを付け、件数の多い順に並べます。この並びが、次の仕分けの入力になります。
そもそも業務の一覧が無く、どの業務を数えるかから決める必要がある場合は、業務の棚卸しからAI化の対象を決める の手順で先に一覧とフロー図を作ります。数える対象が決まっていないと、記録の書き出しだけが増えて使われません。
例外の割合が高い業務をそのまま自動化すると何が起きるか
数えずに進めた場合の失敗は、決まった形で出ます。全体の35%が標準の手順から外れる業務で、標準1件が10分、例外1件が60分かかっているとします。100件あたりの合計は、標準65件で650分、例外35件で2100分、合わせて2750分です。
ここで標準の手順だけを自動化し、10分が1分になったとします。合計は65分+2100分で2165分。21%の短縮です。工程の説明としては自動化が動いていますが、担当者の体感は変わりません。例外の処理は前と同じだけ残っており、しかも標準の手順が自動で流れるようになった分、担当者の時間は例外だけで埋まります。
この計算を先にしておくと、打ち手が変わります。上の例で削減が効くのは例外の側で、例外1件60分を30分にできれば1050分が消え、標準の自動化より大きく動きます。
見落としやすいのは、検証の段階では例外が現れないことです。用意されたサンプルは整った件が中心になり、標準の手順で流れる件だけで精度が出ます。本番に出してから例外が届き、処理が止まる。この止まり方は 止まった生成AIのPoCを本番化する手順 で扱っている型と重なるので、検証用のデータには例外の件を実際の割合で混ぜておきます。
例外を3つに分ける
理由でまとめた例外を、扱いの違う3つに振り分けます。振り分けの基準は、件数と損失額です。
3つの扱いを並べると次のようになります。
| 例外の種類 | 見分け方 | 扱い |
|---|---|---|
| 数が多く、型が決まっている | 同じ理由の例外が月に何件も起きる。処理の手順を担当者が言葉で説明できる | 条件を手順に足して任せる。標準と例外の区別自体を無くす |
| 数は少ないが、損失が大きい | 年に数件。間違えると金額の確定・社外への連絡に影響する | 該当することの検出までを任せ、決めるのは人が承認する形で残す |
| そもそも例外にする必要がなかった | 社内の決まりや様式が原因で外れている。取引先や制度の側には理由が無い | 様式や入力欄の側を直し、標準の手順へ戻す |
数が多く、型が決まっている例外
一番手を付けやすいのがここです。「この取引先の書式は項目名が違う」「この条件のときだけ別の科目を使う」といった例外は、担当者の頭の中に判断の手順があります。聞き取りで条件を書き出せば、そのまま処理の分岐になります。
条件が数個に収まるなら、AIを持ち込まずに分岐を足すだけで済みます。書式や表現の揺れが原因で条件を固定できない場合は、内容を読んで判定する形が要ります。書式の違いが例外の大半を占める業務の具体的な組み方は、請求書処理をAIで自動化 で1つの業務を通して扱っています。
数は少ないが、損失が大きい例外
ここを件数の少なさで軽く見ると、後で戻ってきます。年4件の例外に人の承認を残しても、担当の時間はほとんど使いません。一方で、任せて間違えた場合の是正は、その業務の年間工数を上回ることがあります。
残し方には形があります。判定そのものを人に戻すのではなく、「この件は該当する可能性がある」という検出までを任せ、内容と根拠を並べて人が承認します。全件を人が見る形に戻すと、例外の見落としは減りますが標準の側の効果も消えます。
そもそも例外にする必要がなかったもの
数えると必ず出てきます。申請書に必要な欄が無いので備考へ書かせている、承認の順序が部署によって違う、同じ内容を2つの様式で受け付けている。原因は社内にあり、取引先や制度の側には理由がありません。
ここは自動化の対象ではなく、ルールと様式の修正です。入力欄を1つ足す、受付の様式を1本に寄せる、承認の順序を統一する。手を動かす量に対して減る例外の数が多いので、先に片付けると後の工程が軽くなります。修正には規程や関係部署の合意が要ることがあるため、システムの検討とは別の作業として並行させます。
仕分けたあとに、もう一度数える
3つに振り分けたら、振り分けの結果を数字に戻します。確認するのは次の3点です。
- ルールを直して減る例外を除いたあと、標準から外れる件は何割になるか
- 人の承認として残す例外に、年間で何時間かかるか
- 手順に足した例外を含めて自動で流れる件は、全件の何割になるか
3つ目が7割に届かない業務は、対象の切り方を見直します。業務全体を1つの対象にせず、例外の少ない取引先や様式に絞って始める、あるいは工程の一部だけを切り出す形にします。範囲を絞ると効果は小さくなりますが、例外で止まる状態を先に作らずに済みます。
運用に乗せたあとも、この数字は動きます。ルールを直して減った例外が、様式の変更で戻ってくることもあります。手順に足した条件が増え続けて、分岐が誰にも追えなくなることもあります。月に1回、例外の件数と理由のラベルを同じ形で出し直すと、どちらも早めに見えます。削減時間を金額に直して投資判断に使う場合は、AI導入の効果測定 の積み上げ方に沿って、人の承認として残した時間を差し引いたうえで計上します。
まとめ:例外の多い業務を自動化するときの要点
- マニュアルの一本道の手順で工数を見積もると外れる。時間は手順から外れた件に取られている
- 対象を決める前に、標準から外れる割合・巻き込まれる人・例外1件あたりの時間・間違えたときの損失の4つを業務ごとに数える
- 数える材料は既にある記録から取る。差し戻しの履歴、問い合わせのメール、担当者の手元にしか無い処理の順で拾う
- 例外の割合が高い業務をそのまま自動化すると、標準の手順だけが速くなって合計時間はあまり動かない。検証用のデータには例外を実際の割合で混ぜる
- 例外は3つに分ける。数が多く型が決まっているものは手順に足して任せ、損失の大きいものは人が承認する形で残し、社内ルールが原因のものはルール側を直す
- 仕分けたあとに自動で流れる件の割合を出し直し、7割に届かないなら対象の範囲を絞る
Augueでは、業務の記録から例外の割合と所要時間を数える工程から、任せる範囲と人が承認する範囲の線引き、実装までを支援してまいりました。例外が多くて自動化を諦めていた業務の切り分けからお手伝いできますので、ご興味がある方は是非ご相談ください。
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数える前の業務一覧とフロー図の作り方は 業務の棚卸しからAI化の対象を決める、例外の多い業務を1つ通して見る場合は 請求書処理をAIで自動化、検証で例外を見落とした場合の立て直し方は 止まった生成AIのPoCを本番化する手順 を参照してください。
よくある質問
例外の割合が何%以下なら、自動化の対象にしてよいですか?
一律の線は引けません。割合が同じでも、1件あたり5分の例外と3時間の例外では残る時間がまるで違うためです。判断に使えるのは、例外の件数×1件あたりの時間で出した「自動化しても残る時間」と、その業務の年間の合計時間の比です。残る時間が合計の半分を超えるなら、対象の切り方か例外の減らし方を先に検討します。
数え始めてから対象業務を決めるまで、どれくらいかかりますか?
システムに記録が残っている業務なら、書き出しと分類で1〜2週間が目安です。記録が無く、担当者の手元のメモやメールに散っている場合は、例外が起きたときに1行を残す運用を先に入れることになるため、月に数十件の業務でも1〜2か月分そろうまで待ちます。全業務がそろうのを待たず、記録のある業務から順に決める形が現実的です。
すでにRPAで組んだ処理が例外で止まっています。作り直しになりますか?
全部を作り直す必要はないことが多いです。止まっているのは分岐の判定部分で、決まった操作の実行部分はそのまま使えるためです。止まった件のログから、どの条件で外れたかを分類し、判定だけを内容を読める形に置き換える順序で進めます。分類の結果、条件が数個に収まるなら、AIを足さずに分岐を追加するだけで済む場合もあります。
例外の判断をAIに任せるとき、どこまでの精度を求めればよいですか?
求める水準は例外の損失額で変わります。間違えても後から直せる例外は、人の確認と同程度に届いていれば運用に乗ります。金額の確定や社外への通知を伴う例外は、判定を任せず該当することの検出までにとどめ、決めるのは人が行う形にします。合格ラインの決め方は精度の評価基準を扱った記事に分けてまとめています。
