AIを入れたのに、手元の作業が減らない

読み取りや下書きをAIに任せ、現場からは「速くなった」と言われている。それなのに、月末の残業時間も外注への発注額も導入前と変わらない。こうしたとき、問題はAIの精度ではなく、工程の残り方にあることが多くあります。

AIを入れると、出力を作る工程が1つ増えます。増えた分だけ何かが抜けていれば全体は軽くなりますが、前後の工程がそのまま残っていると、作業が置き換わらずに足し算になります。出力を全件見直す時間、承認を回す時間、これまでどおりの手作業が並行して続いている時間。この3つのどれかが残っていないかを先に見ます。

工程の並び自体を引き直す考え方は「AIネイティブ化とは」にまとめてあります。この記事では、すでに導入した後で工程が残ってしまった状態から、どれを畳むかを扱います。

残り方は3つに分かれる

自部門の状態がどれに当たるかを、先に見分けます。

残っている工程 気付き方 畳むときに決めること
AIの出力を全件人が見直している 確認の担当者の作業時間が、導入前の作成時間とあまり変わらない 人が見る対象をどの条件で絞るか、抜き取りの件数と頻度
承認の段数が導入前のまま 1件が確定するまでに承認する人の数を、導入後に数え直していない 各段で何を見ているか、同じ観点を重ねて見ている段はどれか
元の手作業を並行して続けている 同じ内容がAIの出力側と手作業側の両方に存在する どちらを正とするか、並行をいつ止めるか

この3つは同時に起きていることもあります。その場合でも、一度に全部へ手を入れるより、確認の量がいちばん多い工程から順に見るほうが結果を確かめやすくなります。

出力を全件人が見直している

導入直後は全件を見ます。ここは妥当です。問題は、外す条件を決めないまま全件確認が運用として定着することです。半年後も全件を見ていると、作業の内容が「作る」から「直す」に変わっただけで、かかる時間は動きません。

外すための材料は、その全件確認そのものが持っています。確認した人が何件直したか、どの項目で直したかを記録しておくと、次の3つが分かります。

  • 項目ごとに、AIの出力がそのまま通った割合
  • 直したときの誤りの種類(読み取り違い、前提の取り違え、様式の崩れ)
  • 誤りが後工程まで流れた場合に、どこで気付けるか

ここまで出ると、全件を見るか抜き取りにするかを項目の単位で決められます。一致率が高い項目は抜き取りへ移し、低い項目だけ全件を残す。合格ラインの決め方と、本番に出す前の確認手順は「AIエージェントの精度をどう評価するか」で扱っています。

記録を取っていない場合は、まず直近の分を数えるところから始めます。記録が無いまま「不安だから全件」を続けると、外す根拠がいつまでも手に入りません。

承認の段数が導入前のまま

承認の段は、人が作ったものを人が確かめる前提で組まれています。作り手が機械に変わっても、段の数は自動では変わりません。ここを数え直していない業務は、AIの出力が確定するまでに導入前と同じ人数を通ります。

段を畳む候補を見つけるには、段ごとに何を見ているかを書き出します。

段で見ているもの 導入後の扱い 理由
転記が合っているか、計算が合っているか 機械側の照合へ移す 元データとの突き合わせは条件で判定できる
前の段と同じ観点を確かめ直している 段を1つにまとめる 同じ観点を2人が見ても、見落とす箇所は重なりやすい
金額や相手先が社内の基準を外れていないか 条件に当たった案件だけ残す 基準の内側に収まる案件は機械側で判定できる
社外へ出す内容として問題ないか 人が残す 相手がいる判断で、間違えたときに訂正の連絡が要る

書き出してみると、上2つに当たる段が残っていることがよくあります。この2つは、導入前は必要だった確認です。人が転記していた頃は転記ミスが起きたため、二重に見る意味がありました。転記の工程が機械側へ移った後も、その段だけが残っている形です。

どの工程を機械側に任せ、どこに人の承認を残すかの仕分けの基準は「AIエージェントにどこまで任せるか」にまとめてあります。

元の手作業を並行して続けている

移行の期間に、これまでのやり方を並行して残すことがあります。AIの出力が間違っていたときに戻れるようにするためで、始め方としては妥当です。ただし止める条件を書いていないと、そのまま定着します。

並行が止まらない業務には、共通する状態があります。どちらを正とするかが決まっていないことです。両方に同じ内容がある状態で、食い違ったときにどちらを採るかを決めていないと、結局は両方を見比べる工程が増えます。作業が減らないどころか、見比べる分だけ増えます。

止めるときに決めるのは次の3点です。

  • どちらを正の記録とするか
  • 止める条件(対象の処理が一巡し、食い違いが一定以下に収まること)
  • 戻す条件(何が起きたら並行へ戻すか)

戻す条件を先に書いておくと、止める判断が軽くなります。止めた後に問題が起きても、決めておいた条件に当たれば戻せるためです。

外してよい確認と、残すべき確認を分ける

どの確認を外すかは、確認の内容そのものではなく、間違えたときに誰が困るかで分けます。同じ「金額の確認」でも、社外へ出る請求書と、社内の集計表では扱いが変わります。

確認している内容 間違えたときに誰が困るか 扱い
社外へ出る文面・金額・日程 取引先や応募者。訂正の連絡が要り、信用に関わる 人が全件見る
後工程が前提にする登録内容(台帳、マスタ) 別の部門。気付くのが遅れるほど直す範囲が広がる 条件に当たった分だけ人が見る
社内で完結し、次の工程ですぐ気付く内容 担当者本人。その場で直せる 抜き取りに移す
一度実行すると戻せない処理(送信、支払、削除) 関係者全員。取り消しに手続きが要る 実行の直前に人が残す

社外へ出るものと、戻せない処理は残します。ここを外すと、削減できた時間より訂正の手間のほうが大きくなります。

真ん中の2つが、実際に畳める範囲です。後工程が前提にする登録内容は、全件と抜き取りの間に段階があります。金額の大きさ、初めて取引する相手かどうか、過去に誤りが出た種類かどうかで条件を書き、当たったものだけ人が見る形にします。条件を書くには、どの場合に誤りが出たかの記録が要ります。ここでも全件確認の記録が材料になります。

社内で完結し次の工程ですぐ気付く内容は、抜き取りへ移して構いません。会議の記録、社内向けの下書き、検索結果の要約がこれに当たります。読んだ人がその場で違和感に気付けるため、確認の段を通す意味が小さくなります。

AIを入れた後に残りやすい工程と、畳んだ後の並び 上段は導入後に工程が残っている状態で、AIの出力を人が全件見直し、一次承認と二次承認を通してから確定する。並行して元の手作業が続いている。下段は畳んだ後で、条件に当たった案件だけ人が見て、承認は社外へ出る判断の1回に絞り、残りは機械側の照合で確定する。抜き取りの確認は月に一度まとめて行う。 機械が処理する 人が判断する 工程が残っている状態 AIが出力を 作る 全件を見直す 外す条件が無い 一次承認 転記の確認 二次承認 同じ観点を再度 確定 元の手作業を並行して継続(止める条件が無い) 畳んだ後 AIが出力を 作る 条件で振り分け 金額・初回取引など 当たった案件だけ人が見て承認 社外へ出る判断と、戻せない処理の直前 確定 条件に当たらない案件はそのまま確定し、抜き取りで月に一度まとめて見る
畳めるのは中央の2つです。
社外へ出る判断と、戻せない処理の直前は残したまま、確認の対象を条件で絞ります。

会議で畳む工程を決める

材料がそろっていれば、対象業務を知っている人が集まった場で決められます。持ち込むのは次の3つです。

  • 工程の一覧(誰が、何を見て、1件あたり何分か)
  • 確認した人が直した件数と、直した項目の内訳
  • 並行して続けている手作業があれば、その対象範囲

その場で、工程の各行に「間違えたときに誰が困るか」を書き込みます。書き込んだ結果、担当者本人がその場で直せる行は外し、別部門が困る行は条件を付けて絞り、社外が困る行と戻せない処理は残します。判断が割れるのは、たいてい別部門が困る行です。ここは条件の書き方で落とし所を作ります。全件か全廃かの二択にすると決まりません。

決めた内容は、外した行と、条件を付けた行と、残した行に分けて書き留めます。後から見直すときに、どの前提で外したかが分かる形にしておきます。前提が変わったとき(取り扱う金額の幅が広がった、対象の様式が増えた)に、その行だけを戻せます。

畳んだ後に減ったかを確かめる

工程を外したら、実際に時間が減ったかを見ます。見るのは次の3つです。

  • 1件あたりに人が手を動かした時間と、月の件数を掛けた合計
  • 1件が確定するまでに通る承認者の数
  • 外した確認を通らずに後工程まで流れた誤りの件数

3つ目を置かないと、時間が減ったことだけが報告され、後工程で拾った手直しが見えなくなります。畳んだ工程の効果は、減った時間から後工程で増えた手直しを引いた残りです。

導入前と比べられる形にするには、比べる相手の数字が要ります。取り方と、継続か中止かを決めるラインは「AI導入の効果測定・効果検証」にまとめてあります。手を動かした時間ではなく、申請から完了までの日数が縮まない場合は、待ち時間の側を見る必要があります。その測り方は「業務のリードタイムが縮まらない理由」で扱っています。

まとめ:残った工程を畳むときの要点

  • AIを入れて工程が1つ増えた分、前後のどこかを抜かないと作業は足し算になる
  • 残り方は、出力の全件見直し、前のままの承認の段数、並行して続く手作業の3つに分かれる
  • 全件の見直しを外す材料は、その確認の記録(何件、どの項目を直したか)から取る
  • 承認の段は、段ごとに何を見ているかを書き出す。転記の確認と、前の段と同じ観点の段が候補になる
  • 並行して続けている手作業は、どちらを正とするか、止める条件、戻す条件の3つを決めて止める
  • 外してよいかは確認の内容ではなく、間違えたときに誰が困るかで分ける。社外が困るものと、戻せない処理は残す
  • 畳んだ後は、減った時間だけでなく、後工程まで流れた誤りの件数も一緒に見る

Augueでは、業務の棚卸しから人とAIの担当範囲の引き直し、承認や確認を含めた業務フローの組み替えまで支援してまいりました。導入したものの工程が残ったままになっている場合の見直しも扱いますので、ご興味がある方は是非ご相談ください。

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弊社では具体的な要件が固まっていない段階でも、無料相談で現状をお聞きしていますので、お困りの際はご相談ください。

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よくある質問

全件の見直しを外すには、どれくらいの件数を照合すればよいですか?

一律の件数は出せません。同じ精度でも、月に数十件の業務と数千件の業務では見逃しの絶対数が変わるためです。判断の材料になるのは、項目ごとの一致率、外れたときの誤りの種類別の件数、その業務で月に何件まで見逃しても後工程で拾えるかの3つです。この3つを出してから、抜き取りに移す範囲を決めます。

内部統制や監査の都合で承認の段を減らせないと言われた場合は、どうしますか?

規程が定めているのが承認者の職位なのか、承認の回数なのかを先に確認します。職位を定めているだけなら、同じ職位の1人が確認する形にまとめられることがあります。回数まで書かれている場合は規程の改訂を伴うため、期間のかかる打ち手として別に扱い、先に規程の外側にある慣習上の確認から外します。

工程を畳むために、いま使っているシステムを入れ替える必要はありますか?

多くの場合は不要です。確認の回数も承認の段数も、システムの機能ではなく運用側の決めごとで動いている部分が大きいためです。先に確認するのは、承認の経路を設定で変えられるか、誰がいつ承認したかの記録が残るかの2点です。この2つが満たされていれば、入れ替えずに段数を変えられます。

並行して続けている手作業は、どれくらいで止めるのが普通ですか?

期間で一律には決められません。月末や四半期にしか出てこない処理があると、1か月では例外が出そろわないためです。期間ではなく件数と例外の出方で条件を書きます。対象の処理が一巡し、並行させた両方の結果が食い違った件数が一定以下に収まったら止める、という形にしておくと判断が先延ばしになりません。