工程の作業を速くしても、通り切る日数が動かない
購買の申請が承認されるまで2週間、契約書の社内確認に10日、経費の精算が締めに間に合わない。こうした業務に手を入れるとき、多くの場合は各工程の作業から見ていきます。申請書の記入を楽にする、確認の観点を整理する、転記をなくす。ところが一通り手を入れても、申請から完了までの日数はほとんど変わらないことがあります。
理由は単純で、日数のうち誰かが手を動かしていた時間は最初から数十分しかなかったからです。残りは、次の担当が気付くまでの時間、内容が分からず問い合わせている時間、差し戻された理由を確かめている時間、月次の締めを待っている時間で埋まっています。手を動かしている数十分を半分にしても、全体の日数は1%も動きません。
先に測るのは、この2つの時間の切り分けです。
経過時間と着手時間を分ける
同じ業務について、性質の違う2つの時間を別々に持ちます。
| 測る時間 | 何から何まで | この数字で分かること |
|---|---|---|
| 経過時間 | 申請が出た時点から、完了として記録された時点まで | 依頼した人や取引先から見た遅さ。カレンダーの日数で数える |
| 着手時間 | 各担当が実際に手を動かしていた時間の合計 | 人の負荷。工程ごとに分けて分単位で持つ |
| 待ち時間 | 経過時間から着手時間を引いた残り | どこに時間が溜まっているか。工程間ごとに分けて持つ |
この3つを並べると、手を入れる場所が変わります。着手時間が大きい業務は担当の負荷の問題なので、作業を任せる打ち手が効きます。待ち時間が大きい業務は、作業をいくら速くしても経過時間が動かないので、受け渡しの側に手を入れます。
同じ会社の中でも、業務によってどちらが大きいかは変わります。件数が多く1件あたりの作業が長い業務は着手時間が支配的になり、承認の段が多い業務や部門をまたぐ業務は待ち時間が支配的になります。測る前に「どちらのはずだ」と決めてしまうと、たいてい外れます。
経過時間の取り方
経過時間は、業務の記録から取れることが多い数字です。取れる場所は3つあります。
申請日と完了日の記録。 ワークフローシステム、経費精算、購買、勤怠のようなシステムを通る業務なら、申請の作成日時と完了・確定の日時が残っています。書き出して差を取るだけで、1件ごとの経過時間になります。まず見るのは平均ではなく分布で、遅い側の1〜2割にどれくらいの件があるかを確認します。平均だけを見ると、大半は3日で通っているのに一部が30日かかっている状態が「平均8日」に丸まって、手を入れる場所が消えます。
承認ログのタイムスタンプ。 段ごとの承認日時が残っていれば、工程間の待ちを分けて出せます。ここまで取れると、どの段の前で滞留しているかが1件単位で分かります。差し戻しの記録も同じログから拾えるので、何回戻った件がどれくらい時間を食っているかも出せます。
システムを通らない業務。 メールとファイル共有だけで回っている業務には記録がありません。この場合は、申請の受付日と完了日を記録する運用を先に入れます。専用のシステムは要らず、受付の一覧に日付の列を2つ足すだけでも測れる状態になります。ここを飛ばして体感で議論を始めると、遅いという合意はできても、縮んだかどうかを後で言えなくなります。
記録がどこにあるかを探す前に、そもそもどんな業務が動いているかの一覧が無い場合は、業務の棚卸しからAI化の対象を決める の手順で先に一覧を作ります。測る対象が決まっていないと、記録の書き出しだけが増えて使われません。
着手時間の取り方
着手時間は、システムの記録からはほぼ取れません。画面を開いていた時間と手を動かしていた時間は違いますし、そもそも作業の大半が画面の外で起きています。担当者への聞き取りで埋めます。
聞き方には少し注意が要ります。「この作業に何時間かかりますか」と聞くと、待ちを含んだ答えが返ってきます。次の3つに分けて聞きます。
| 聞く内容 | 聞き方 | 集計で使う形 |
|---|---|---|
| 1件あたりの手を動かす時間 | 途中で他の仕事に移らずに済んだ場合、何分で終わるか | 工程ごとの着手時間 |
| 前の工程から受け取ったあと、着手までに空く時間 | 依頼が来てから、実際に見始めるまでどれくらい空くか | 工程間の待ちのうち、自部門で作れる分 |
| 手が止まる原因 | どんなときに一度置いて、他へ確認するか | 差し戻し・問い合わせの発生率 |
3つ目が一番役に立ちます。「金額の内訳が書かれていないと発注元に聞き直す」「前月の資料と数字が合わないと経理へ確認する」といった具体的な引っかかりが、待ちの発生源そのものです。ここは記録には残らないので、聞き取りでしか取れません。
聞き取りは、工程を持っている担当それぞれに30分ずつで足ります。全員に長く聞くより、同じ質問を関わる全部門にすることのほうが大事です。前の工程の担当と次の工程の担当で、渡したはずの情報の認識がずれていることがよくあり、そのずれ自体が待ちの原因になっています。
どこに時間が溜まっているかを一覧にする
2つの時間がそろったら、工程と工程のあいだを行にした表を作ります。工程そのものではなく、あいだを行にするのがこの表の要点です。次の表は書き方を示すための記入例で、数字は自社の記録から埋めます。
| 工程間 | 待ちの平均・中央値 | 遅い1割の待ち | 差し戻し率 | 待ちの理由 |
|---|---|---|---|---|
| 申請 → 一次承認 | 2.1日 / 1.0日 | 9日 | 18% | 承認者が気付いていない、内訳が不足 |
| 一次承認 → 部門確認 | 3.4日 / 2.5日 | 12日 | 6% | 依頼内容の読み替えに時間がかかる |
| 部門確認 → 最終承認 | 5.8日 / 5.0日 | 14日 | 4% | 週1回の会議に合わせている |
| 最終承認 → 登録 | 0.2日 / 0.1日 | 1日 | 0% | なし |
この表を作ると、着手時間の話が自然と後ろに下がります。上の例では、手を入れる価値があるのは3行目の5.8日と2行目の3.4日で、作業を速くする打ち手はどちらにも効きません。
行を並べる順序は、待ちの長さではなく「待ちの長さ×年間の件数」にします。1件あたり10日待つ業務でも年間20件なら合計200日ですが、3日の待ちが年間500件あれば1500日です。年間の合計で並べると、手を付ける順序が変わることが珍しくありません。この並べ方は最初の対象業務を選ぶときの考え方と同じで、最初の1業務の選び方 の絞り込みと合わせて使えます。
縮む待ちと、縮まない待ちを分ける
待ちを一覧にしたら、手を入れて縮む待ちと、仕組み上そこにあり続ける待ちを分けます。混ぜたまま計画を立てると、縮まないものを縮める前提で削減時間を積み上げてしまいます。
| 待ちの種類 | 例 | 手の入れ方 |
|---|---|---|
| 気付いていない | 依頼が届いたことを次の担当が把握していない | 未着手の件を一覧で見えるようにし、一定日数で督促を出す |
| 内容が読み替えできない | 前の工程の書き方では、次の担当が判断できない | 引き渡し用の要約と不足項目の指摘を自動で付ける |
| 差し戻しの理由が伝わらない | 「要修正」だけが戻り、何を直すかを確認し直す | 差し戻しの理由と該当箇所を文章として残す |
| どこで止まっているか分からない | 依頼元が状況を問い合わせ、担当が調べて答える | 進行中の件の現在地を、依頼元が自分で見られるようにする |
| 社外からの回答待ち | 取引先の押印、審査、見積の返送 | 縮まない。督促の時期を早める程度 |
| 制度上の待ち | 月次の締め、週1回の会議、規程で決まった期間 | 縮まない。開催の頻度や締めの設計を変えるかの判断になる |
| 人の不在 | 承認者の出張・休暇 | 代理承認の設定など、運用側の取り決めで対応する |
上の4行は、AIを当てる先になります。共通しているのは、どれも工程の作業ではなく、工程と工程のあいだにある受け渡しだという点です。前の工程の記録を読んで次の担当が見るべき点を整える、戻す理由を文章にする、止まっている件を集めて知らせる。いずれも定型の転記ではなく、内容を読んで書き直す作業なので、様式が決まっていない引き継ぎでも扱えます。
下の3行は、打ち手の対象から外します。外すこと自体が判断で、外した理由を表に書いておくと、後から「なぜここは手を付けていないのか」を説明できます。社外からの回答待ちを縮められる前提で計画を立てると、実行段階で必ず届きません。
制度上の待ちは、扱いに注意が要ります。週1回の会議を待っているだけの3日は、会議の頻度を変えれば縮みますが、それは業務の設計を変える判断です。AIの導入とは別に扱い、必要なら業務の組み替えとして AIネイティブ化とは の進め方に沿って設計します。
打ち手を入れる順序
待ちの分類ができたら、手を入れる順序は次のようになります。
- 状況が見える形を先に作る。未着手の件と滞留日数の一覧を出すだけで、督促の待ちは減り始めます
- 差し戻しの理由付けを入れる。差し戻し率の高い工程間から手を付けます
- 引き渡し情報の整形を入れる。前の工程の内容から、次の担当が見る項目を埋めた形を作ります
- 各工程の作業そのものに手を入れる。ここは経過時間ではなく着手時間、つまり担当の負荷を下げる打ち手です
1と2を飛ばして3から始めると、整形した内容が使われないまま止まることがあります。次の担当が受け取ったことに気付いていない状態では、渡す形をどれだけ整えても待ちは残ります。
引き渡し情報の整形や差し戻しの理由付けは、内容を読んで文章を作る処理なので、出力をそのまま確定させません。次の担当に渡す前に、要約が元の内容と合っているかを確認する段を残します。ここを省くと、間違った要約を信じて判断が進み、後の工程でやり直しになって、縮めた日数以上の待ちが発生します。
縮んだかどうかを数字で言えるようにする
打ち手を入れたら、測った同じ場所で同じ取り方をして比べます。比べる数字は3つです。
- 経過時間の中央値と、遅い1割の待ち日数
- 工程間ごとの待ちの長さ
- 差し戻し率と、差し戻し1回あたりの追加日数
このうち動きが出やすいのは、平均ではなく遅い側の1割です。督促や可視化が効くのは、止まっていることに誰も気付いていなかった件なので、大半が3日で通っている業務では中央値はほとんど動かず、30日かかっていた件が7日になります。中央値だけを見て「効果が出ていない」と判断しないよう、最初から遅い側の数字を並べておきます。
着手時間は別に持ち続けます。待ちが縮んでも着手時間が増えていれば、確認の手間を担当に寄せただけです。両方を並べて、経過時間が縮み着手時間が増えていない状態を確認します。
縮んだ日数を金額に直して投資判断に使う場合は、件数と時間の積み上げ方を AI導入の効果測定と効果検証 にまとめています。経過時間の短縮は担当の作業時間の削減とは別の効果なので、同じ表に混ぜて足し上げないよう、分けて計上します。
まとめ:リードタイムを縮めるときの要点
- 申請から完了までの経過時間と、担当が手を動かしていた着手時間は別物として持つ。待ち時間はその差として工程間ごとに分ける
- 経過時間は申請日と完了日の記録や承認ログから取り、着手時間は担当への聞き取りで埋める。手が止まる原因の聞き取りが、待ちの発生源をそのまま指す
- 一覧の行は工程そのものではなく工程と工程のあいだにする。並べる順序は待ちの長さではなく、待ちの長さ×年間の件数
- 気付いていない待ち、内容が読み替えできない待ち、差し戻しの理由が伝わらない待ち、現在地が見えない待ちが手を入れる先。社外からの回答待ちと制度上の待ちは分けて外す
- 効果の確認は平均ではなく遅い側の1割から見る。待ちが縮んで着手時間が増えていれば、手間を担当に寄せただけになる
Augueでは、業務の棚卸しから工程間の待ちの測定、引き継ぎの整形や状況の可視化までを支援してまいりました。作業を速くしても日数が動かない業務の切り分けからお手伝いできますので、ご興味がある方は是非ご相談ください。
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よくある質問
測り始めてから最初の打ち手を出すまで、どれくらいかかりますか?
承認ログが残っている業務なら、書き出しと集計で数日、聞き取りを含めて2週間ほどが目安です。ログが残っていない業務は、申請日と完了日を記録する運用を先に入れる必要があるため、件数が月に数十件の業務でも1〜2か月分そろうまで待つことになります。測り終わるのを全業務で待たず、ログのある業務から順に手を付ける形が現実的です。
ワークフローシステムやRPAを入れるのと、どう違いますか?
目的が重なる部分はありますが、効く場所が違います。ワークフローシステムは経路と記録を整える手段で、これが入っていない業務では測ることすらできません。RPAは決まった操作の代行なので、様式が固定された転記に向きます。この記事で扱っている待ちの短縮は、前の工程の内容を読んで次の担当が判断できる形に直す部分で、様式が固定できない引き継ぎに向きます。
承認者の数を減らせば日数は縮みますか?
縮む場合もありますが、先に測らずに減らすと理由の分からない差し戻しが増えます。承認の段が多いこと自体より、各段で何を見ているかが書かれていないことが待ちの原因になっていることが多いためです。段ごとの待ちの長さと差し戻し率を出したうえで、判断が重複している段を候補にします。承認権限の変更は規程の改訂を伴うので、時間のかかる打ち手として別に扱います。
件数が月に数件しかない業務でも測れますか?
測れますが、平均や中央値では読めません。数件では1件の例外が全体を動かすため、件数の多い業務を先に測り、少ない業務は個別に経路をたどる形にします。年間の合計時間が大きくない業務は、そもそも最初の対象から外して構いません。判断の材料は、日数の分布ではなく、その業務で誰から誰へ何が渡っているかの記録になります。
