一部の部署で止まっているとき、何が起きているか

先行した部署で回っている状態というのは、業務の手順の中にAIを使う工程が組み込まれていて、担当が替わっても同じように動いている状態です。ここまで来た部署がある一方、他部署へ広げようとすると止まる。よく見るのは次の2つです。使ってみたものの数週間で元のやり方に戻った、あるいは配っただけで着手されない。

このとき、上から利用を促す、研修を追加する、といった手を足しても動かないことがあります。止まっている場所が違うためです。原因は大きく2つに分かれます。広げた先の業務がAIに向いていないという対象業務の選び方の問題と、作った人以外が直せず質問先も無いという支える体制の問題です。この2つは打ち手が違うので、どちらなのかを先に切り分けます。

なお、部門をまたいだ業務の並べ替えまで含めて考える場合は、企業のAIネイティブ化の進め方 の業務棚卸しの手順とあわせて読むと、対象の選び方がつながります。

止まっている原因を切り分ける

見えている状態から、確かめる場所を決められます。

見えている状態 確かめること 原因の所在
導入から2〜3週間で使われなくなった 利用が落ちた時期に何が変わったか(担当替え、様式の変更、出力の質のいずれか) 支える体制
特定の担当者だけが使い続けている その人が出力の前後でどれだけ手直ししているか 対象業務の選び方
使ってはいるが、元のやり方も並行して残っている 元の手順を残している理由 承認の線引きが決まっていない
「うちの業務では使えない」で止まる その部門の業務を件数と定型度で並べ直したか 対象業務の選び方
触れる人が1人しかいない その人が不在の週に手が入るか 支える体制
導入の話が社内の承認で止まる 扱うデータの種類について社内ルール上の判断が済んでいるか ルールの未整備

手直しの量は、対象業務が合っているかを判断しやすい材料です。出力を受け取ってから使える形にするまでの作業が、元のやり方と同じくらいかかっているなら、その業務は今の形では向いていません。件数が少なくて手順を思い出すところから始まる業務も同じで、使うたびに立ち上がりの負担がかかります。

元のやり方が並行して残っている場合は、担当者が慎重なのではなく、間違っていたときに誰が責任を持つかが決まっていないことが多くあります。この場合に必要なのは利用の促進ではなく、確認をどこで挟むかを決めることです。扱ってよいデータの範囲を含めた社内の決め方は 生成AIの社内利用ルールをどう作るか にまとめています。

次にどの部門へ広げるかを決める

部門の名前ではなく、その部門が抱えている業務の性質で選びます。見る観点は5つです。

見る観点 先に広げてよい条件 後回しにする条件
件数 毎週まとまった数が発生する 月に数件で、そのつど手順を思い出す
手順 判断の基準を文章に書き出せる 判断が担当者の経験の中にあり、聞いても書き出せない
間違いの影響 出力を人が確認してから先へ進む 確認を挟まずに社外や取引へ反映される
扱うデータ すでに社内で共有されている情報を扱う 個人情報や契約上の制限がかかる情報を扱う
受け手 その部門に手を動かす担当がいる 依頼だけが来て、部門内では誰も触らない

このうち最後の受け手が抜けやすい観点です。件数も手順も条件を満たしているのに、部門内に手を動かす人がいないまま渡すと、動かなかったときに直す人がいません。逆に、業務の条件が多少悪くても触れる人がいる部門は、使いながら形が整っていきます。

対象業務そのものの選び方は 生成AIの内製化は最初にどの業務から始めるか で詳しく扱っています。全社展開では、その判定を部門ごとに繰り返すことになります。

1部門へ広げるときの6工程と、戻すときの経路 候補を洗い出し、広げる順序を人が決め、持ち込む範囲を切り分けて導入する。導入後は利用を観測し、続いているかを人が判定して次の部門へ進む。手当てを入れても戻らない場合は順序の決定へ戻す。 手を動かす工程 人が判断する 1. 候補の洗い出し 3. 持ち込む範囲 4. 利用の観測 6. 次の部門へ 2. 順序を決める 5. 続いているか 業務の性質で並べる 件数と定型度で選ぶ 作り直す部分を分ける 使った人数と件数 落ちた原因を見る 支える手が空いたら 対象業務の選び直し 手当てを入れても戻らないときは2へ戻す
広げる先を決めてから持ち込む範囲を切り分け、導入後は利用を観測します。手当てを入れても戻らないときは、広げる順序の判断まで戻します。

先行部署のやり方を、どこまで作り直すか

先行部署で動いているものをそのまま配ると、出力が業務に合わずに数週間で戻ります。かといって一から作り直す必要もありません。要素ごとに分けると、持ち込める部分と作り直す部分がはっきりします。

持ち込むもの そのまま使える場合 作り直しが要る場合
どの工程を渡すかの切り方 工程の並びと承認の回数が同じ 承認の担当や回数が違う
指示文 扱う書式と用語が共通している 部門固有の用語や略語がある
参照させる社内文書 ほぼ無い 部門ごとに別の文書になるため原則として作り直す
人が確認する線引き 間違えたときの取り返しやすさが同程度 社外に出る工程やお金が動く工程を含む
動かす手順 業務の発生タイミングが同じ 締めや繁忙の時期が違う

作り直しがほぼ必ず要るのは、参照させる社内文書です。同じ会社でも、部門が日常的に見ている資料は別物で、更新の頻度も持ち主も違います。ここを引き継げると考えて同じ設定のまま配ると、出力が的外れになり、使う人は自分で調べ直すほうが早いと判断します。

一方で使い回せるのは、工程の切り方と確認の線引きの考え方です。どこまでを機械に任せ、どこから人が判断するかという線は、業務が違っても同じ基準で引けます。この線を先行部署から持ち込めると、部門ごとに一から議論する必要がなくなります。

社内文書を参照させる仕組みそのものの選び方は RAGとファインチューニングの違い を参照してください。部門を増やすほど、更新の手間がどちらに寄るかが効いてきます。

使われ続けているかを何で見るか

導入した数を数えても、使われ続けているかは分かりません。見るのは次の5つです。

見る指標 どう取るか 落ちたときに疑うこと
週あたりに使った人の数 部門の対象人数に対する割合で見る 担当替え、繁忙期、手順の変更
対象業務のうちAIを通った件数の割合 業務全体の件数と突き合わせる 対象業務の選び方が合っていない
出力をそのまま使えた割合 手直しの有無を担当者に聞く 参照文書の更新漏れ、様式の変更
元の手順が並行して残っていないか 業務の手順書と実態を突き合わせる 確認の線引きが決まっていない
質問が返ってくるまでの日数 問い合わせの記録から見る 支える側の人数が足りていない

見る頻度は、導入直後の3か月は週次、その後は月次で足ります。大事なのは、落ちたことに気付けるように落ちる前の水準を記録しておくことです。記録が無いと、少なくなったという感覚だけが残り、原因を探しにいけません。

削減額まで含めた測り方は AI導入の効果測定と投資判断 にまとめています。定着の観測は、そこで使う数値の土台になります。

落ちたときに誰が手を入れるか

観測して落ちていることが分かっても、手を入れる人が決まっていなければ止まったままになります。落ち方によって、最初に見る場所と手を入れる人が変わります。

落ち方 最初に見る場所 手を入れる人
出力の質が下がった 参照文書の更新、扱う書式の変更 作った担当
使う人が減った 担当替え、繁忙期、手順の変更 部門の運用担当
一部の人だけ使っていない 使い方の不明点か、業務が合っていないか 部門の運用担当
誰も直せない状態になった 作った担当の異動、外部委託の終了 体制の問題として上位で判断

必要な役割は3つです。部門の中で日々の質問を受けて利用を見ている運用担当、部門をまたいで作り方や社内ルール、契約を管理する横断の担当、そして実装に手を入れられる人です。

欠けやすいのは部門の運用担当です。横断の担当と作れる人だけを置くと、質問が全部そこへ集まり、部門が増えるほど返答が遅くなります。返答が翌営業日を超え始めたら、支える側が足りていない合図として扱えます。部門側で手を動かせる人を増やす進め方は 非エンジニアがAIを作れるようになるまで で扱っています。

広げる速度をどこで決めるか

同時に何部門まで進められるかは、支える側の余力で決まります。部門数の目標を先に置くと、目標に合わせて形だけの導入が並び、あとから全部が落ちます。

速度を決める材料として使えるのは、すでに広げた部門から出ている数字です。質問への返答が遅れ始めた、直せる人が1人に偏っている、先に広げた部門の利用が落ちたまま戻っていない。このいずれかが出ているなら、次の部門へ進む前に手当てを入れます。逆に、先に広げた部門で3か月続いていて質問も落ち着いているなら、次へ進める状態です。

進める順番を決めるときは、支える側の負担が軽い部門を先に置くと、体制を作りながら広げられます。難しい部門を最初に選ぶと、支える側が1部門に張り付いて全体が止まります。

まとめ:全社へ広げるときの5つの要点

  • 止まっている原因を、対象業務の選び方と支える体制のどちらかに切り分けてから手を打つ
  • 次に広げる部門は名前ではなく、件数、手順を書き出せるか、間違いの影響、扱うデータ、部門内に手を動かす人がいるかで選ぶ
  • 先行部署から持ち込めるのは工程の切り方と確認の線引き。参照させる社内文書は原則として作り直す
  • 使われ続けているかは、利用者数と処理件数の割合、手直しの量、元の手順が残っていないかで見る
  • 落ち方ごとに手を入れる人を決めておく。部門側の運用担当が抜けると、質問が横断の担当へ集中して止まる

Augueでは、業務の棚卸しから対象業務の選定、部門ごとの展開と定着の観測までを、部署単位でも全社でも支援してまいりました。先行した部署から先に進まない状態の切り分けからお手伝いできますので、ご興味がある方は是非ご相談ください。

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全社の業務をAI前提に組み替える手順は 企業のAIネイティブ化の進め方、社内に作れる人を残す進め方は 生成AI・AIエージェントの内製化の進め方 を参照してください。

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よくある質問

全社へ広げるのに、専任の担当は何人必要ですか?

人数を一律には出せません。決まるのは同時に抱える部門の数と、部門側に手を動かす担当がいるかどうかです。判断材料としては、質問への返答が翌営業日を超え始めたか、直せる人が1人に偏っていないかを見ます。どちらかが崩れているなら、人を足すか広げる速度を落とすかのどちらかになります。

研修を全社で実施すれば広がりますか?

研修で埋まるのは使い方を知らない状態までで、対象業務が合っていない場合や直せる人がいない場合はそのまま残ります。先に切り分けをしてから、足りない部分に研修を充てる順番が無駄になりません。部門側の運用担当を決めたうえで、その人に手厚く時間を使う形が続きやすくなります。

全社で同じツールに統一したほうがよいですか?

契約と社内ルールの管理は統一したほうが軽くなりますが、使い方まで揃える必要はありません。部門ごとに扱う文書も用語も違うため、参照させる社内文書と指示文は分けて持つことになります。統一する対象として先に決めておきたいのは、扱ってよいデータの範囲と、社外へ出す前の承認の手順です。ここが部門ごとにばらつくと、後から全社で見直すことになります。

展開が一巡するまでにどれくらいかかりますか?

部門数と対象業務の性質で変わるため、期間を先に置くと合わせるために形だけの導入が増えます。区切るなら期間ではなく、1部門で利用が3か月続いたら次へ進む、といった状態で区切ります。止まったときに何を直せばよいかも、その方が特定しやすくなります。

経営から全社利用の号令を出せば進みますか?

号令で動くのは着手までで、その後に残るのは対象業務の選び方と支える体制です。号令だけを出すと、報告のために形だけ導入した部門が並ぶことがあります。あわせて部門ごとの運用担当を決めること、利用状況をどの形式で報告するかまで指示に含めると、どこで止まっているかが表に出ます。