生成AIの社内ルールは、禁止事項を並べるより先に「どの情報を、どのサービスで使ってよいか」を1枚の判定表で示すと、現場で使われる形になります。作り方は、現状の把握、たたき台、部署での確認、周知と見直しの4つの手順です。最初はA4で1〜2枚の短い版を配り、運用で出た質問を見ながら、9章立ての利用規定へ育てます。

この記事の答え

  • 生成AIの社内ルールは、禁止事項ではなく「情報区分×利用形態」の入力可否の判定表を中心に作る
  • 最初から完成した利用規定を目指さず、A4で1〜2枚の短い版と判定表を先に配る
  • 次にやることは、社内での使われ方と既存の情報管理規程の区分を確かめること

禁止事項だけのガイドラインで起きること

生成AIの社内ルールとして最初に配られる文書は、利用規定という名前で制定される場合も、ガイドラインとして周知される場合も、多くは同じ構成になっています。個人情報を入力しない。機密情報を入力しない。出力をそのまま使わない。業務での利用は申請制とする。

書かれている内容そのものは間違っていません。ただ、この文書を受け取った人には、明日から何をしてよいかが分かりません。「機密情報」が自分の扱っている資料を指すのかどうかを、各自が判断することになります。判断の材料がないので、安全側に倒します。すると入力できるのは公開済みの情報だけになり、AIに聞けることは検索の言い換え程度に縮みます。

申請制も同じ形で詰まります。承認者が1人か2人に集まっていると、申請は届いた順に処理されます。1週間待つと分かった時点で、多くの人は申請しません。使うのをやめるか、自分のアカウントで済ませます。

禁止事項の列挙で起きるのは、危険な利用が止まることではなく、業務のなかで通せる経路がなくなることです。ルール文書を点検するときは、何を禁止しているかではなく、現場が迷わずに通せる経路がいくつ書かれているかを見ます。

生成AIの社内ルールの作り方:4つの手順

社内ルールは、白紙から条文を書き始めると止まります。現状の把握、たたき台、部署での確認、周知と見直しの順に進めると、各段階で決めることがはっきりします。

生成AIの社内ルールの作り方 現状の把握、たたき台、部署での確認、周知と見直しの4段階で社内ルールを作る流れ ・現状の把握からたたき台、部署での確認、周知と見直しの順に進める ・最初に配るのは短い版で、詳しい利用規定は運用の記録を見て足す 現状の把握 使われ方を集める ・匿名のアンケート ・経費と連携の記録 既存の規程を確かめる ・情報管理規程の区分 たたき台 区分と可否の表 ・情報区分の表 ・入力可否の判定表 短い版のひな形 ・A4で1〜2枚 部署での確認 業務部門に当てはめて もらう ・手元の資料で試す 情シス・法務の確認 ・契約条件 ・法令 周知と見直し 短い版を配る ・窓口と返答期限 利用規定へ育てる ・別紙と本体に分ける
最初はA4の1〜2枚の短い版を配り、運用しながら利用規定へ育てます。
順番 手順 やること 主に担う人
1 現状の把握 社内での使われ方と、既存の情報管理規程の区分を確かめる 情報システム部門
2 たたき台 情報区分の表、入力可否の判定表、短い版の文案を作る 所管部署
3 部署での確認 業務部門が手元の資料で判定表を試し、情報システム部門と法務が契約条件と法令を確かめる 業務部門・法務
4 周知と見直し 短い版を配り、窓口に来た質問をもとに区分表や規定を直す 所管部署・各部門の窓口

現状の把握とたたき台:判定表から先に作る

最初に確かめるのは、誰がどのサービスを何に使っているかと、社内に情報の区分がすでにあるかの2つです。使われ方は、匿名のアンケートや経費精算の記録、社内アカウントへの外部アプリ連携の記録から集めます。アンケートでは、報告した利用を処分の対象にしないことを先に伝えます。既存の情報管理規程や文書管理規程に機密度の区分があれば、生成AI用に新しい区分は作らず、それに紐づけます。

たたき台の中心は、条文ではなく情報区分と利用形態の判定表です。表が決まれば、短い版の文面はその表を読み下す形で書けます。目的や適用範囲から書き始めると、どこまでを対象にするかが決まらず、手が止まります。

部署での確認と周知:手元の資料で試してから配る

業務部門には、文面を読んでもらうより、手元の資料を1つ選んで判定表に当てはめてもらいます。当てはめられなかった資料が、区分表に例として書き足す項目です。あわせて、情報システム部門が各サービスの契約条件を、法務が個人情報や取引先との守秘条項の扱いを確かめます。

周知の段階で配るのは、短い版と判定表で足ります。窓口と返答期限を書いておけば、判断に迷った人の行き先ができます。運用を始めた後に窓口へ来る質問、例外の申請、事故やヒヤリハットの報告が、次の改訂で直す箇所を教えてくれます。違反時の扱いを文書に書く必要が出てきた段階で、利用規定として制定します。

全部が揃うまで公開を待つと、その間は各自の判断で使われ続けます。最初から完成した利用規定を目指さず、短い版と判定表を先に配る方が、ルールのない期間を短くできます。

「社内ルール」「利用規定」「ガイドライン」の言い分け

同じ文書が、社内では違う名前で呼ばれます。呼び方が混ざったまま作り始めると、どこまで拘束力があるのか、変えるときに誰の決裁が要るのかで止まります。作る前に整理します。

呼び方 社内での位置づけ 変えるときの手続き
ガイドライン(手引き) 判断のよりどころ。外れても直ちに違反にはならない 所管部署の判断で改定する
利用規定(規程) 社内の規程体系に載る内部規則。違反時の扱いが就業に関する規程とつながる 規程の改訂手続き(決裁・周知)を通す
運用手順・別紙 規定を実行するための表と様式。情報区分表、可否表、申請様式 所管部署の決裁で差し替える

社内ルールという言い方は、この3つをまとめて指す日常語として使われます。制定するときに決めるのは、どの層に何を書くかです。違反したときに人事上の扱いが生じる部分と、社外との契約で守ると約束している部分は規定に置きます。どのサービスにどの情報を入れてよいかは月単位で変わるため、別紙に置きます。

ガイドラインだけで運用している会社は珍しくありません。規定まで作るかどうかの目安は、違反したときにどうするかを文書に書く必要があるかです。書く必要があるなら規定として制定します。無ければ手引きのまま別紙を充実させる方が早く回ります。

最初に配る短い版のひな形(A4で1〜2枚)

利用規定を制定する前でも、最初に配る短い版があれば現場は動けます。短い版は手引きの位置づけにし、判断に使う表は別紙として添えます。

項目 書くこと 書き方の例
目的 業務での利用を認める前提と、守りたいもの 業務で生成AIを使うことを認めます。顧客と取引先から預かった情報を守るため、次の範囲で使ってください
対象者 誰に当てはまるか 社員、契約社員、派遣・業務委託で同じ業務を担う人
使ってよいサービス 会社が契約しているサービスと、その確認日 会社が契約した法人向けのチャットサービス(契約条件は○年○月に確認)
入力してよい情報 判定表で「可」になる情報の例 公開済みの情報、自分が書いた文章の推敲、社内手順書の下書き
入力しない情報 判定表で「不可」になる情報の例と置き換え方 認証情報、取引先から受け取った未公開の資料。個人名はA社・担当者Xに置き換える
出力の確認 出力を業務に使うときに誰が何を確かめるか 社外に出す前に、事実と数字を資料を出す人が確かめる
困ったときの窓口 問い合わせ先と返答期限 情報システム部門の窓口へ。翌営業日までに一次回答します
見直し いつ、誰が直すか 所管部署が半年ごとと、サービスの条件が変わったときに見直します

短い版で外せないのは、使ってよいサービスと窓口の2つです。この2つが書かれていれば、判断に迷った人が個人アカウントで済ませる理由が減ります。

短い版から詳しい利用規定へ育てる順序

短い版は、運用で必要になった順に書き足して、詳しい利用規定へ育てます。順序は次のとおりです。

  1. 判定表と区分表を別紙として独立させます。サービスの条件が変わるたびに直すため、所管部署が差し替えられるようにします。
  2. 窓口に来た質問を区分表の例に足します。同じ質問が繰り返し来る項目は、書き方が足りていない箇所です。
  3. 申請と例外の手続きを書き足します。社内でAIを作る人が出てきたら、届出で済む範囲と本審査が要る範囲を分けます。
  4. 違反時の扱いが要る段階で、利用規定として制定します。次の節の9章立てに沿って、本体の条を書きます。

そのまま使える生成AIの利用規定(9章)の章立て

ここからは、規定として社内の規程体系に載せる場合の章立てを見ます。目的や適用範囲、所管部署、改訂手続き、違反時の扱いといった条が要ります。既存の情報管理規程や情報セキュリティ規程と用語が食い違うと、どちらが優先するかで止まるため、用語は既存側に合わせます。

章立てで先に決めておきたいのは、規定の本体に書くことと、別紙に置くことを分ける点です。情報区分と利用形態の可否表は、サービスの契約条件が変わるたびに直す必要があります。これを規定の本体に埋め込むと、1行直すのに規程の改訂手続きが要ることになり、実態と文書がずれたまま放置されます。本体には「別紙の区分表と可否表に従う」と書き、表は所管部署が差し替えられる別紙にします。

章 書くこと 質問を減らすために添えるもの
目的 何のために利用を認めるか 禁止ではなく業務での利用を前提にする旨を1文で書く
適用範囲 誰が、どの端末・アカウントで、どの利用形態を使う場合が対象か 業務委託、派遣、出向者を含むかを明記する
用語の定義 生成AI、情報区分、利用形態の呼び分け 既存の情報管理規程の用語をそのまま使う
利用の原則 通してよい経路と、通す前に確認すること 別紙の区分表・可否表への参照
情報の取り扱い 入力してよい情報の線引きと、出力を業務に使うときの確認責任 置き換え方の具体例、入れてよい例
申請と承認 届出で済む範囲、本審査が要る範囲、返答期限 窓口の連絡先と様式の置き場所
例外 誰がどの範囲まで例外を認められるか、記録の残し方 例外の有効期限
所管と改訂 所管部署、点検の頻度、版の記録 別紙だけを差し替える場合の決裁者
報告と違反時の扱い 事故やヒヤリハットの連絡経路、違反時に何が起きるか 報告した人を不利に扱わない旨

表のうち、書き方で迷いやすいところを補足します。適用範囲でつまずきやすいのは、社員以外の扱いです。業務委託や派遣の方が同じ業務を担っている場合、規定の対象外にすると、同じ資料が対象外の経路で扱われます。契約側でどう縛るかとあわせて決めます。

違反時の扱いは、処分の根拠を新しく作るのか、既存の就業に関する規程に委ねるのかで書き方が変わります。ここは法務と決める部分で、規定側では連絡経路と、報告した人を不利に扱わないことを書くまでに留める形が扱いやすくなります。事故が起きたときに最初に必要なのは、処分ではなく事実の把握だからです。

分量は、本体を数ページに収めて、判断に使う表を別紙に出す形が現実的です。本体が長いほど読まれず、結局は窓口に質問が集まります。

白紙から書き始めるときの順序

規定を書くときも、判断に使う表から先に埋め、本体の条は最後に書きます。目的と適用範囲から書き始めると、どこまでを対象にするかが、どの情報をどの経路で扱えるか決まるまで書けないためです。

順番 決めること 先に決めないと起きること
1 手引きとして配るか、規程として制定するか 書き上げた後で決裁の重さが変わり、全文を書き直す
2 情報区分(既存の情報管理規程の区分に紐づける) 「機密情報」と書いたままになり、現場が自分の資料を当てはめられない
3 使ってよい利用形態と、各サービスの契約条件の確認 可否表の列が確定せず、可否を書けない
4 情報区分と利用形態の可否表 条文が抽象的になり、質問が窓口に集まる
5 置き換え方の例と、確認なしで進めてよい例 「条件付き可」が条件のまま読まれ、使われない
6 窓口、返答期限、例外の出し方 判断できないものが各自の判断で処理される

2から5は同じ担当が続けて決められます。1と6は決裁や法務の確認を挟むため、着手を早めます。先に条文を書くと、表を差し込めない書き方で仕上がり、あとから別紙を足す形にできません。

情報を機密度で区分する

線引きの前に、区分が必要です。生成AI用に新しい分類体系を作る必要はありません。情報管理規程や文書管理規程がすでにあるなら、そこの区分に紐づけます。無い場合でも、4段階程度に収めます。

  • 公開済み情報(すでに社外に出しているもの)
  • 社内限(一般的な社内文書、手順書、社内向けの資料)
  • 取扱注意(顧客情報、個人情報、未公表の財務・人事情報)
  • 厳格管理(契約上の守秘義務の対象、法令で取り扱いが制限されるもの、認証情報)

段階を細かくしすぎると、区分を当てる作業そのものが止まります。区分は、現場が数秒で当てられる程度の分け方に保ちます。

このとき先に決めておきたいのは、区分を当てにくいものの置き場所です。会議の録音と文字起こし、画面のスクリーンショット、システムのログ、ソースコード、他社から預かったデータは、元の規程に想定がないことが多く、質問が集中します。どの区分に入れるかを最初に決めて、区分表に例として書いておきます。会議の記録を要約や課題の起票に使う場合は、区分に加えて、社外の人が同席する会議を対象から外すかどうかも決めます。

なお、第三者から預かったデータは自社の機密度区分では決まりません。預かった際の契約の守秘条項が優先します。区分表とは別枠で扱い、契約条件の確認は法務が持ちます。

入力可否の判定表:情報区分と利用形態で決める

同じ情報でも、どの経路で使うかによって可否が変わります。判定表は、行に情報区分、列に利用形態を置き、各セルに「可」「条件付き可」「不可」を入れた1枚の表です。

利用形態ごとに確かめる契約条件

個人向けのプラン、法人契約のチャットサービス、API経由、クラウド事業者のサービスとして自社テナント内で使う形では、データの扱いの条件が一致しません。確かめるのは次の5点です。

  • 入力したデータが学習に使われるか
  • 入力と出力の保存の有無、保存期間、保存される場所
  • 管理者側で利用ログを取得・監査できるか
  • 再委託先(サブプロセッサ)の範囲
  • 利用を止めたときや退職したときのデータの削除方法

「あのサービスは学習に使われない」といった伝聞で決めず、各サービスの利用規約とデータ処理に関する条件で確認します。条件は契約更新やプラン変更で変わるため、確認した日付と規約の版を記録に残します。

個人情報の行は個人情報保護委員会の注意喚起を根拠にする

個人情報を含む情報の行は、法令の考え方から決めます。個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表し、個人情報取扱事業者に向けて次の2点を示しています。

  1. 個人情報を含むプロンプトを入力するときは、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認する。
  2. 本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法の規定に違反する可能性がある。そのため、サービスを提供する事業者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認する。

判定表の「取扱注意」の行で、学習に使われる経路を「不可」にし、使われない経路でも条件付きにするのは、この注意喚起に沿った書き方です。判定表の欄外に、根拠として注意喚起の名前と日付を書いておくと、なぜ不可なのかを聞かれたときに説明できます。

判定表の書き方の例

条件付き可のセルには、伏せてから入力する、上長の承認を得る、保存を無効にする設定を確かめる、といった条件を具体的に書きます。次は書き方の例です。可否と条件は、自社の規程と各サービスの規約で確認したうえで自社で決めます。

情報区分 個人向けプラン 法人契約のチャットサービス API・自社テナント内の構成
公開済み情報 可 可 可
社内限 不可 可 可
取扱注意 不可 条件付き可(個人が特定できる記載を置き換える/保存を無効にする設定を確認する) 条件付き可(ログの保存先と保存期間を確認する)
厳格管理 不可 不可 条件付き可(守秘条項と法令要件を法務が確認したものに限る)

この表があると、現場から来る質問の多くはその場で解決します。逆にこの表がないまま文章だけでルールを書くと、質問はすべて窓口に集まります。

入力してよい情報の線引きをどこまで具体的に書くか

区分と経路が決まっても、「取扱注意の情報は伏せてから入力する」という一文だけでは現場は動けません。何をどう伏せるのかが分からないためです。判断できるところまで具体的に書きます。

  • 実在する個人が特定できる記載(氏名、所属、連絡先、社員番号、顧客ID)は置き換えてから入力する。置き換え方も示す(取引先はA社、担当者はXなど)
  • 相手方から受け取った未公開の資料は、原文を貼らず、自分が書いた要約と質問に置き換える
  • 認証情報(パスワード、APIキー、アクセストークン)は、検証用のものでも入力しない
  • 金額や件数そのものを渡さず、集計や判断の手順だけを聞く形に置き換えられないか先に検討する

同時に、入れてよいものの例も書きます。禁止例だけを並べると、読んだ人は判断に迷った全件を禁止側に寄せます。「自分が書いた文章の推敲」「公開されている情報の整理」「社内手順書の下書き」のように、確認なしで進めてよい範囲を明示しておきます。

例文は各部門から実際の依頼内容を集めて作ります。抽象的な例だけでは、自分の手元の資料に当てはめられません。運用を始めた後は、窓口に来る質問の内容が、書き方が足りているかの点検材料になります。同じ質問が繰り返し来るなら、その項目の書き方が足りていません。

迷ったときの窓口と判断の流れ

線引きの最後には、迷ったときの窓口と返答期限を書きます。翌営業日までに一次回答を返す、といった形です。入力してよいかは、次の流れで上から順に確かめると行き先が決まります。

生成AIに情報を入力してよいかの判断 情報区分、使う経路、可否表のセル、条件を満たせるかの順に答え、入力してよいかを決める ・上から順に答え、最初に右へ抜けたところで扱いが決まる ・「迷ったら使わない」で終わらせると、判断が要る業務ほどAIから外れる 公開済みの情報か どの経路でも使ってよい はい いいえ 個人向けプランか 使わない ・法人契約の経路へ切り替える はい いいえ 判定表で不可か 入力しない ・要約と質問に置き換えられないか考える はい いいえ 条件を満たせるか 窓口へ回す ・迷うときも窓口へ ・翌営業日に一次回答など いいえ はい 条件を満たして使う ・置き換え方と保存設定を確かめる
判断できないものの行き先と返答期限まで決めておきます。

個人アカウントでの生成AI利用をどう扱うか

規程で禁止しても、個人アカウントでの利用は残ります。禁止して失われるのは、利用そのものではなく、会社から利用が見えることです。無償で使えるプランは個人のメールアドレスだけで登録できるため、会社側の管理を通りません。

禁止や移行を決める前に、どこで使われているかを次の記録から集めます。

  • 経費精算・立替申請にAIサービスの支払いが含まれていないか
  • 業務用端末のブラウザ拡張機能の一覧
  • 社内のアカウントに対する外部アプリの連携(OAuth)許可の記録
  • 匿名を含むアンケートで、何にどう使っているかを聞く

正規の経路を用意してから期限を切る

先に同等以上のことができる正規の経路を用意し、次に期限を切って移行を依頼し、最後に個人アカウントでの業務利用を規程に位置づけます。正規の経路がないまま通知だけを出すと、報告されない利用に変わるだけです。

正規の経路が揃うまでの期間をどう書くかも決めておきます。空白にすると、各自の判断で使い続けます。公開済み情報に限って個人アカウントでの利用を認める、といった形で、暫定の範囲と期限を明示する方が実態に近づきます。

規程には禁止・条件付き・当面の容認のどれで書くか

書き方 成立する条件 起きやすいこと
禁止する 全員が使える正規の経路があり、機能の差が小さい 差がある機能は個人アカウントに残り、報告されなくなる
条件付きで認める 入れてよい情報を公開済み情報などに絞れる 「公開済み」の当てはめで質問が出る。区分表の例で補う
当面は容認する 正規の経路の導入時期が決まっている 期限を書かないと恒久化する

どれを選ぶかは、正規の経路がどこまで揃っているかで決まります。揃っていない段階で禁止と書くと、文書と実態が離れ、以後どの条も参照されなくなります。容認から始める場合は、いつまでの扱いかと、次の見直し時期を同じ条に書きます。

外部サービスへのアカウント連携は先に許可制にする

なかでも優先度が高いのは、外部のAIサービスに社内のメールやファイルへのアクセスを許可する連携です。テキストを貼り付ける利用と違い、許可した時点で継続的にデータが外へ流れます。しかも設定するのは個人です。管理者側で、アプリごとの許可制を先に入れておきます。

ルールを作る側と使う側の役割分担

ルールが更新されなくなる原因の多くは、担当が決まっていないことです。特に「この業務でこの資料を入力してよいか」は、情報システム部門も法務も判断しきれません。その資料に何が書かれているかを知っているのは、業務を持っている部門です。

担う人 持つこと
情報システム部門 利用形態ごとの技術条件(アカウントと権限の管理、ログ取得、外部連携の許可、保存設定)
法務・コンプライアンス 契約条件と法令の当てはめ、第三者から預かったデータの扱い
業務部門の責任者 自部門が扱う情報がどの区分に当たるかの割り当てと、部門内の例外承認
各部門の担当窓口 日常の質問への一次回答と、判断できないものの引き上げ

あわせて、区分表と可否表の更新担当、点検の頻度、版の記録を決めます。サービスの条件は変わるため、半年で内容が古くなります。

例外を申請する経路も必要です。例外を認めない規程は、破られる形で運用されます。誰がどの範囲まで例外を出せるか、記録をどこに残すかを書いておきます。

社内でAIを作り始めた段階で増える審査観点

チャット画面に文章を貼る利用と、業務に組み込んだAIを動かす利用では、審査する項目が変わります。非エンジニアが自分で作れる環境が整うと、後者が部門ごとに増えていきます。

追加で確かめる5つの観点

貼り付けの利用とは別に、次の5つの観点で審査の基準を書きます。

追加する観点 確認すること 見落としたときに起きること
参照範囲 参照先が、作った人ではなく使う人の権限で絞られているか 共有フォルダを丸ごと参照させると、元のフォルダ権限では読めない内容まで回答に出る
実行権限 読み取りだけか、書き込み、送信、支払い、社外への連絡を伴うか 社外に出る動作が人の承認なしに進む
認証情報の持ち方 誰の権限で動いているか 作った人の異動や退職で止まるか、逆に権限が残る
ログ保全 入力、出力、参照したデータ、実行した操作を、誰がいつまで見返せるか 事故が起きたときに経緯を再現できない
停止手順と引き継ぎ先 誰が止められるか、止めると業務のどこが止まるか、作った人の異動後は誰が見るか 止め方が分からないまま動き続ける

参照範囲は、作った時点では気づきにくく、後から範囲を狭めるのは手間がかかります。最初の届出の段階で確かめます。

審査を届出と本審査に分ける

自分の担当業務の範囲で、読み取りのみ、社外に出力しない、という条件に収まるものは届出だけにします。部門を越えるデータを参照する、社外へ何かを送る、支払いが発生する場合に本審査を通します。すべてを同じ審査に通すと承認待ちが積み上がり、作る動きそのものが止まります。窓口には返答期限を書きます。

公開した後に改訂していく手順

利用規定は公開した時点から古くなっていきます。使えるサービスも契約条件も、社内でAIを使う場面も、翌月には変わります。改訂の手順を規定に書いていないと、直す人が決まらないまま古い版が残り、現場は文書を見ずに判断するようになります。

改訂の引き金を先に決める

日付だけを決めた定例点検にすると、間の期間に起きた変化を拾えないため、改訂の引き金を先に列挙します。

改訂の引き金 見直す箇所 決裁
新しいAIサービスを導入する/プランを変える 可否表の列、契約条件の確認日と規約の版 所管部署の決裁で別紙を差し替える
サービス側が利用規約やデータの扱いを変えた 可否表の該当セル、条件付き可の条件 同上。条件が厳しくなる場合は法務が確認する
事故・ヒヤリハットが報告された 線引きの書き方、報告経路、審査の段階分け 所管部署が案を作り、規程の改訂手続きに乗せる
同じ質問が窓口に繰り返し来る 区分表の例、入れてよい例の書き方 所管部署の決裁で別紙を直す
社内で作ったAIが業務に組み込まれ始めた 審査観点、届出と本審査の線引き 規程の改訂手続きに乗せる
法令や国のガイドライン、契約条件が変わった 適用範囲、第三者データの扱い、違反時の扱い 法務が確認したうえで改訂手続きに乗せる
定例点検(半年ごとなど) 全体。特に契約条件の確認日が古い行 変更が無ければ点検した記録だけ残す

決裁の重さを分けるのが要点です。別紙の表まで規程の改訂手続きに乗せると、サービス側の条件が変わってから文書に反映されるまで数か月かかります。その間、現場は古い表を見て判断します。本体の条(適用範囲、承認の仕組み、違反時の扱い)は改訂手続きを通し、表の差し替えは所管部署の決裁で回せるようにしておきます。

版の記録と変更点の周知

周知は全文の再配布ではなく、変更点だけを1枚にまとめて配ります。全文を配ると読まれず、変わったことに気づかないまま運用が続きます。可否が緩む方向の変更は特に伝わりにくいため、これまで不可だったものが通るようになった点は明示します。

改訂したら、版番号、改訂日、変更点の要約、適用開始日を残します。過去の版も参照できるようにしておくと、事故が起きたときに「その時点のルールで何が認められていたか」を後から確認できます。

次の改訂で何を直すかは、運用の記録から決めます。窓口に来た質問の内容と件数、例外申請の理由、届出と本審査それぞれの件数と待ち時間を残しておきます。待ち時間が伸びている場合は、審査の段階分けか承認者の人数を見直します。

自社の生成AIの社内ルールを点検する項目

手元のガイドラインを次の項目で見ると、活用を止める形になっていないかが分かります。

点検の観点 確かめること
文書の位置づけ 手引きか規程かが決まっていて、拘束力が要る部分だけ規定に置かれているか
通せる経路 禁止事項だけでなく、通してよい経路が具体的に書かれているか
情報区分 「機密情報」のような語が、現場が当てはめられる区分に紐づいているか
判定表 情報区分と利用形態の可否が1枚で分かるか
窓口 迷ったときの窓口と、返答期限が書かれているか
個人アカウント 代わりに使える正規の経路が用意されているか
外部連携 外部サービスへのアカウント連携が許可制になっているか
別紙 区分表と可否表が別紙になっていて、本体の改訂手続きを通さずに差し替えられるか
改訂 更新担当、点検頻度、版が記録され、サービスの条件変更や事故の報告が改訂の引き金として書かれているか
業務に組み込むAI 審査基準が、貼り付けの利用と分けて書かれているか

埋まっていない項目が、次に決めることです。文書を全面的に書き直す必要はありません。区分表と可否表の2枚を足すだけで、質問の大半は現場で解けるようになります。

まとめ:生成AIの社内ルールは短い版と判定表から作る

  • 生成AIの社内ルールで点検するのは「何を禁止しているか」ではなく「現場が迷わず通せる経路がいくつあるか」
  • 作り方は、現状の把握、たたき台、部署での確認、周知と見直しの4つの手順。たたき台の中心は条文ではなく判定表
  • 最初はA4で1〜2枚の短い版を配り、使ってよいサービスと窓口を必ず書く。詳しい利用規定へは運用の記録を見て育てる
  • 手引き、規程、別紙の3層に分け、違反時の扱いと契約上の約束は規程、可否の表は別紙に置く
  • 利用規定の9章は、本体に目的、適用範囲、承認の仕組み、改訂手続きを書き、情報区分と可否の表は別紙に出す
  • 情報区分は既存の規程に紐づけて4段階程度に収め、区分を当てにくいものの置き場所を先に決める
  • 判定表は利用形態ごとの契約条件を規約で確かめて作り、個人情報の行は個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月2日)を根拠に書く
  • 個人アカウントの利用は、正規の経路を用意してから期限を切って移行し、外部サービスへの連携は先に許可制にする
  • 業務に組み込むAIには5つの審査観点を足し、届出と本審査に分ける
  • 改訂の引き金を先に列挙し、別紙の差し替えと本体の改訂で決裁を分ける

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よくある質問

他社や業界団体のひな形をそのまま使ってよいですか?

章立ての参考にはなりますが、可否の中身までは流用できません。ひな形が想定している契約形態と、自社が契約しているプランやテナントの条件が一致しないためです。目的や適用範囲、改訂手続きといった枠はひな形に寄せ、どの情報をどの経路で扱ってよいかは自社の規程と各サービスの規約を見て埋めます。

社内ルールを作るのに、どれくらいの期間がかかりますか?

一律の期間は出せません。長さを決めるのは、既存の情報管理規程に情報の区分があるか、使ってよいサービスが何種類あるか、法務や決裁の確認に何回かかるかの3点です。区分がすでにあり、使うサービスが1〜2種類なら短い版と判定表は早く揃います。全部を揃えてから配るより、短い版を先に配り、規定の本体は後から改訂で足す方が、空白の期間を短くできます。

研修とルールの周知はどう組み合わせればよいですか?

文書を配るだけでは読まれないため、研修の中で判定表を実際に使う時間を取ります。受講者が自分の手元の資料を1つ選び、情報区分を当て、どの経路で使えるかを判定表で確かめる演習にすると、ルールの中身が業務と結びつきます。演習で出た質問は、区分表の例や短い版の書き方を直す材料になります。

生成AIの出力を社外向けの資料にそのまま使ってよいですか?

そのまま使う前に、誰が中身を確かめるかを決めておきます。事実や数字が正しいか、他者の文章や画像に似すぎていないか、社外に出してよい情報だけでできているかを、資料を出す人が確認する形が一般的です。AIを使って作ったことを社外に示すかどうかも、社内で方針をそろえておくと、担当者ごとに判断が分かれません。

取引先から生成AIの使い方について聞かれたら、どう答えますか?

短い版と判定表をもとに、預かった情報をどの経路で扱い、どの経路では扱わないかを説明できるようにしておきます。取引先から預かったデータの扱いは、自社の区分ではなく契約の守秘条項に従う旨も添えます。契約で生成AIの利用に条件が付いている場合は、法務がその条件を判定表の例外として書き足します。