AIネイティブ化とは

AIネイティブ化とは、人がやる仕事とAIがやる仕事の担当範囲を引き直し、その前提で業務の順序や外注の使い方まで組み替えることです。AIを使う工程を既存の流れに足すのではなく、工程の並び自体を引き直す点が業務効率化と分かれます。

引き直すには、いまの業務がどう並んでいるかを把握しないと始まりません。そのため実務としては、業務の棚卸し、AIへ委譲できるかの判定、TOBE業務フローの設計、削減計画という順に進みます。判断の材料は各部門の中にあり、決める人は段階ごとに変わります。

誰が何を決めるか

進め方の話に入る前に、決める人を役割ごとに分けておきます。ここが曖昧なままだと、一覧や試算が集まった後で「これは誰が確定させるのか」から相談が始まり、そこで数週間が過ぎます。

役割 決めること 決めないこと(委ねる先)
経営 投資と回収の期間、外注契約の見直しと採用計画への反映、事業の数字につながる指標 個別の業務をAIへ委譲するかの判定(対象部門に委ねる)
部門長 業務一覧の確定、承認の回数と最終確認者、業務単位の指標 業務の手順の中身(実務メンバーが書き出す)
実務メンバー 業務の洗い出し、属人的な業務の手順を書き出せるかの検証 承認の設計と、対外的な責任をどこまで人に残すかの線引き
経理・購買 外注費として数える範囲 工数の削減幅(対象部門が出す)
情報システム データの取り出し口と、誰がアクセスできるか 業務フローの並び(部門長と実務メンバーが決める)

経営が持つのは、部門の裁量では動かせないものです。外注の契約と採用計画がそれにあたります。逆に、どの業務をAIへ委譲するかを経営が決めようとすると、業務の実態が分からないまま線を引くことになります。

部門長が持つのは、責任の所在に関わる部分です。業務一覧をその部門の仕事の説明として認めるか、AIが作ったものを誰が最後に確認するか。ここを推進する側が代わりに決めると、運用に乗せた後で差し戻しになります。

経理・購買と情報システムは、全部の段階には出てきません。外注費の対象範囲を確定させる段階と、データの取り出し口を決める段階だけです。ただしこの2つは待ち時間が長くなりやすいため、必要になってから声をかけると、そこで止まります。段階ごとの並びは後述します。

部分的な効率化で止まる理由

各部門でAIを使い始めると、議事録の要約や文章の下書きは早くなります。ところが全社の費用は減りません。理由は単純で、削れた時間が別の作業に吸収されるからです。人の作業が少し楽になっただけで、業務の並び方も外注の使い方も変わっていません。

AIネイティブ化と、業務効率化・DXの違い

「AIを使う」という言い方には、変える範囲の違う取り組みが混ざっています。並べると、いま自社がどこまでを対象にしているかが分かります。

何をするか 変える対象 終わったときの状態
ツールを入れる(業務効率化) 1人あたりの作業時間 同じ業務を、同じ順番で、速くこなしている
手続きをシステムに載せる(DX) 手作業や紙で回っていた工程の形式 同じ流れがシステム上で流れている
AIネイティブ化 人とAIの担当範囲、業務の順序、外注と人員の構成 工程そのものが減り、支出の出どころが変わっている

ツールを入れて終わる場合、変わるのは1人あたりの作業時間です。要約や下書きが速くなっても、その後に誰が確認し、どこへ回し、何回承認するかは前のままです。工程の数は減っていないため、費用として見えるところまで届きません。手続きをシステムに載せる取り組みも、置き換わるのは工程の形式であって、工程の並び自体は残ります。

業務の並び方そのものを組み替えると、変わる対象が3つに広がります。

  • 業務の順序 … 人が作ってから確認する流れが、AIが作って人が判定する流れになります。順序が変われば、承認の回数や途中でやり取りする成果物の形も変わります
  • 外注の使い方 … 外へ出していた作業のうち、手順を書き出せるものは社内で回せる対象になります。契約の範囲を見直す話が伴います
  • 人員計画 … 採用の予定や配置の前提が変わります。工程が減れば、必要な人数の見込みも変わります

この3つが動いて初めて、費用の構造が変わります。逆に言えば、業務の順序も外注の使い方も人員計画も前のままなら、ツールをいくつ入れてもAIネイティブ化には届いていません。

すでに部分的な導入で止まっている状態から始める場合、全社を一度に扱う必要はありません。最初に手を付ける範囲は、件数が多く同じ手順が繰り返されていて、担当と工程が1つの部門の中に収まっている業務です。ここは順序を組み替えても他部門の承認が要らないため、途中で止まりにくくなります。部門をまたぐ承認を含む業務や、外注の契約期間が残っている業務は、最初の対象には向きません。範囲を決めたら、その中で人とAIの境目を引き直します。

進め方

5つの段階を順に進めます。役割ごとの分担を段階の並びに置き直すと、どこで誰を呼ぶかが決まります。

段階 決めるのは誰か 期間を左右するもの
1. 業務の棚卸し 実務メンバーが業務を挙げ、部門長が一覧を確定させる 対象部門の数と、1部門あたりで話を聞く回数
2. 委譲の判定 実務メンバーと部門長。対外的な責任を伴う業務の線引きは契約や表示の責任を持つ部門も入る 判定を保留にした業務の数(手順を書き出す作業が伴う)
3. TOBE業務フローの設計 部門長が承認の回数と最終確認者を決める。データの取り出し口とアクセス範囲は情報システム 部門をまたぐ受け渡しの数
4. 削減計画 経理・購買が外注費の対象範囲を確定させ、経営が投資と回収の期間を決める 外注費のデータが揃うまでの時間
5. KPIを置いて実行 経営が事業の数字につながる指標、部門長が業務単位の指標を持つ 測る間隔(ここから先は続く段階)

所要を日数で先に置いても、あまり当たりません。同じ「棚卸し」でも、1部門を対象にした場合と全社を対象にした場合で桁が変わるためです。見積もりの材料になるのは、最初の1部門を通したときの実績です。ヒアリングから一覧の確定までに何時間かかり、確認で何件直ったかを記録しておくと、残りの部門を掛け算で見込めます。

1. 現状の業務を棚卸しする

部門ごとに、時間軸に沿って業務を洗い出します。組織図や役割分担の資料からではなく、実務メンバーへのヒアリングから拾います。役割分担の資料に載っていない業務が、実際には工数を食っていることがよくあります。

各業務で記録するのは次の項目です。

  • 発生タイミングと件数、頻度
  • 目的とアウトプット
  • かかっている工数
  • 担当(社員か、外注か)
  • 使用ツール
  • 定型か属人的か

業務を挙げるのは実務メンバーですが、一覧を確定させるのは部門長です。「この一覧で自部門の仕事が説明できているか」を判断できるのがその位置だからです。推進する側は書式と粒度の決め方を揃えるところまでにして、業務の中身を推測で埋めません。埋めた行は、次の判定で実態と合わないまま残ります。

洗い出しの材料の集め方、一覧で揃える項目、粒度をそろえる順序は 業務の棚卸しをAIで進める にまとめてあります。この記事では、一覧が揃った後に何を決めるかを扱います。

全部門を同時に始めるより、1部門で手順を固めてから広げるほうが結果として早く終わります。最初の1部門は、後の部門の所要を見積もる材料にもなります。

2. AIへ委譲できるかを判定する

棚卸しした業務を、次の観点で仕分けます。

区分 見分け方 該当する業務の例 扱い
委譲しやすい 入力と出力が決まり、判断基準を言葉にできる 転記、集計、フォーマット変換、一次調査、下書き作成 先に委譲する
人が残る 対外的な責任を伴う、前例がない、関係者間の折衝を含む 対外文書の最終確認、条件交渉、例外の裁定 委譲しない(後で戻す手間が出る)
判定が難しい いまは属人的だが、手順を書き出せるかもしれない 品質の判断を含む確認作業、経験で決めている優先順位づけ 手順を書き出してみるまで確定させない

委譲しやすい業務は、入力と出力が決まっていて、判断基準が言葉にできるものです。転記、集計、フォーマット変換、一次調査、下書き作成が該当します。

人が残る業務は、対外的な責任を伴うもの、前例のない判断、関係者間の折衝です。ここをAIに寄せると、後で戻す手間が発生します。

判定が難しい業務は、いまは属人的だが手順を書き出せるかもしれないものです。ここが最も削減余地が大きく、同時に見誤りやすい。実務メンバーに詳しく聞き、実際に手順を書き出してみるまで判定を確定させないほうが安全です。

仕分けの結論を出すのは実務メンバーと部門長です。対外的な責任を伴う業務をどこまで人に残すかは、契約や対外的な表示に責任を持つ部門も入れて決めます。実務側だけで決めると、運用に乗せた後で差し戻しになります。

この段階でかかる時間は、保留にした行の数でほぼ決まります。委譲する行と人が残す行の判定は短く済み、保留の行だけが手順を書き出す作業を伴うためです。保留が多いときは、件数の多い業務から順に手順化を試します。全部の保留を片付けてから次へ進もうとすると、そこで止まります。

棚卸しした業務をAIへ委譲するかの判定 入力と出力が決まり判断基準を言葉にできる業務はAIへ委譲する。対外的な責任や前例のない判断、折衝を含む業務は人が残す。属人的だが手順を書き出せる可能性がある業務は、手順化を試してから判定する。 AIへ委譲する 人が残る 棚卸しした業務 実務メンバーへのヒアリングから拾う 入力と出力が決まっているか 判断基準を言葉にできるか AIへ委譲 転記、集計、変換、 一次調査、下書き作成 手順化を試す 属人的だが書き出せそうな業務。 書けたら委譲、書けなければ人へ 人が残る 対外的な責任、前例のない 判断、関係者間の折衝 はい 保留 いいえ
削減余地が大きいのは中央の保留です。書き出せるかを試す前に判定を確定させると、委譲できる業務を人に残したままになります。

3. TOBE業務フローを設計する

委譲する業務を抜いた後、残った業務をつなぎ直します。ここで気をつけるのは、既存フローの一部をAIに置き換えるだけの設計にしないことです。AIが前提にあるなら、承認の回数や中間成果物の形も変わります。

同時に、誰が何を承認するかを決めます。AIが作ったものをそのまま外に出さない箇所を明示しておくと、運用に乗せたときの事故が減ります。

承認の回数と最終確認者を決めるのは部門長です。どのシステムからデータを取り出すか、誰がアクセスできるかは情報システムが決めます。この2つを別々の場で決めると、フローは描けたのに必要なデータへ手が届かない、という形で止まります。設計の場に両方を呼んでおきます。

期間は、部門をまたぐ受け渡しがいくつあるかで変わります。1部門で完結する業務は関係者が揃えばその日のうちに描けることもありますが、受け渡しがあると相手部門の合意が要るため、その待ちがそのまま所要になります。最初の対象を1部門に収まる業務から選ぶと、ここが短く済みます。

4. 削減計画を金額で立てる

工数の削減幅を、金額に換算します。社員の工数は人件費、外注している業務は外注費として計算します。

外注費を扱うときは、データの網羅性を先に確認します。経営が把握している金額と、現場が実際に発注している金額がずれていることがあります。子会社や事業部単位の発注が集計から漏れていたり、制作費が原価に含まれていて外注費として見えていなかったりします。ずれたまま計画を作ると、後から全部作り直しになります。

どこまでを外注費として数えるかを確定させるのは経理・購買です。工数の削減幅を出すのは対象部門、投資と回収の期間をどう置くかは経営が決めます。試算の作業そのものは長くかかりません。この段階の所要は、ほぼ外注費のデータが揃うまでの時間です。集計の依頼を最初の段階で出しておくと、棚卸しと並行して進みます。

5. KPIを置いて実行する

計画で終わらせないために、測る指標を先に決めます。置きやすいのは次のあたりです。

  • 外注費の削減額
  • 採用予定数の抑制
  • 特定業務のリードタイム
  • 現場が自力で実装したワークフローの本数

順位や利用回数のような中間指標だけを見ていると、費用が減ったかどうかが分かりません。事業の数字につながる指標を1つ以上入れておきます。

事業の数字につながる指標は経営が持ち、業務単位の指標は部門長が持ちます。両方を推進する側が抱えると、数字が動かなかったときに手を入れる人が決まりません。測り方と、組み替える前の値をどう残しておくかは AI導入の効果測定と効果検証 で扱っています。棚卸しの時点で頻度と所要時間を記録しておかないと、後から「前はどれくらいかかっていたか」を思い出しで答えることになります。

最初の範囲から他部門へ広げる

1つの部門で工程を組み替えると、他部門から同じことをやりたいという話が出ます。ここで先行した部門のやり方をそのまま持ち込むと動きません。扱う書類も、承認する相手も違うためです。かといって毎回ゼロから作ると広がりません。流用できるものと作り直すものを分けます。

持ち込むもの そのまま流用できるか 広げるときの扱い
業務一覧の書式と、棚卸しの進め方 できる 先行した部門の書式を渡し、書き方の説明を省く
委譲するかの判定の基準 できる 入力と出力が決まっているか、判断基準を言葉にできるかという見方は部門が変わっても同じ
個別の業務フローと、AIへの指示の中身 できない 対象の書類と受け渡しの相手が違うため、対象部門で作り直す
承認の回数と最終確認者 できない 責任の所在が部門ごとに違う

流用できるのは進め方と判断の基準まで、作り直すのは中身、という線引きになります。先行した部門の成果物をそのまま配ると、受け取った側は自部門に合わない箇所を直すところから始めることになり、ゼロから作るのと変わらない手間がかかります。

次にどの部門へ広げるかの決め方、使われ続けているかの見方、落ちたときに誰が手を入れるかは 生成AIが一部の部署で止まる にまとめてあります。

体制を縮めるときに起きること

外注や人員の構成を変えると、それまで見えていなかった依存が表に出ます。実際に起きるのは次のようなことです。

表に出てくること 事前の手当て
レビューできる人がいなくなり、変更が止まる レビューの一部を自動チェックに移す
1人しか触っていない領域を引き継げない 契約終了の条件にドキュメント整備を入れる
引き継ぎ先が育つまでの空白期間が出る 前工程を非エンジニアが回し、最終確認だけ専門家が担う
特定のベンダーへの依存が残る 依存箇所を洗い出し、代替手段の有無を先に確認する

どれも事前に手当てできます。縮小の計画と同時にこれを設計しておくと、止まりません。

まとめ:AIネイティブ化を進めるときの要点

  • 役割分担の資料ではなく、実務メンバーへのヒアリングから業務を洗い出す
  • 段階ごとに決めるのが誰かを先に置く。業務一覧を確定させるのは部門長、外注費の対象範囲は経理・購買、投資と回収の期間は経営
  • 所要は日数で先に置かず、最初の1部門を通したときの実績から見込む
  • 委譲できるかの判定は、実際に手順を書き出してみるまで確定させない
  • 削減計画は金額で立てる。その前に外注費データの網羅性を確認する
  • 中間指標だけでなく、事業の数字につながるKPIを1つ以上置く
  • 他部門へ広げるときは、進め方と判断の基準だけを流用し、フローと承認の設計は作り直す

Augueでは、業務の棚卸しからTOBE業務プロセスの設計、削減計画の策定と実行支援まで、部署単位でも全社でも対応してまいりました。外注費の削減や採用数の抑制といった具体的なKPIを置いて進めますので、ご興味がある方は是非ご相談ください。

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棚卸しの手順そのものは 業務の棚卸しをAIで進める、先行した部門から他部門へ広げる段階は 生成AIが一部の部署で止まる にまとめてあります。現場が自力でAIを作れるようにする進め方は AI内製化の進め方、開発を外部に任せる場合の判断材料は AIエージェント開発の進め方 を参照してください。

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よくある質問

AIへ委譲できるかの判定で、いちばん間違えやすいのはどこですか?

いまは属人的だが、手順を書き出せるかもしれない業務です。ここが削減余地としては最も大きく、同時に見誤りやすい部分です。実務メンバーに詳しく聞き、実際に手順を書き出してみるまで判定を確定させないほうが安全です。

削減計画を金額で立てるとき、先に確認すべきことは何ですか?

外注費データの網羅性です。経営が把握している金額と、現場が実際に発注している金額がずれていることがあります。子会社や事業部単位の発注が集計から漏れていたり、制作費が原価に含まれて外注費として見えていなかったりします。ずれたまま試算すると計画ごと作り直しになります。

経営からの号令が無い状態でも始められますか?

1つの部門の中で完結する業務なら始められます。部門長の判断で承認の回数や担当の割り振りを変えられる範囲であれば、他部門の合意を待たずに工程を組み替えられるためです。号令が要るのは、外注の契約を見直す段階と、採用計画に手を入れる段階です。そこまで進める見込みがあるなら、最初の1部門の結果を数字で示せる形にしておくと、話を上げるときの材料になります。

現場から「自分の仕事が無くなる」と言われたときは、どう説明しますか?

業務単位ではなく工程単位で話すほうが伝わります。委譲の対象になるのは転記や集計、下書きのように入力と出力が決まっている工程で、判断と対外的な責任は人に残るためです。説明の材料になるのは、その人の業務のうちどの工程が対象で、空いた時間を何に充てる想定かという2点です。ここが決まっていないまま説明すると、不安だけが残ります。

既存の業務システムを入れ替える必要はありますか?

多くの場合は不要です。先に確認するのは、いま使っているシステムから必要なデータを取り出せるかどうかです。取り出せるなら、システムはそのままで工程の並びを変えられます。取り出せない場合も、入れ替えの前に出力方法の追加で足りることがあります。入れ替えを先に決めると、工程の設計がシステムの都合に引きずられます。

外部に頼まず、自社だけで進められますか?

棚卸しと委譲の判定は社内のほうが精度が出ます。業務の実態を知っているのが実務メンバーだからです。外部の手が要りやすいのは、TOBE業務フローを実装に落とす段階と、外注費データの整理のように部門をまたいで数字を突き合わせる段階です。全部を任せるより、どこを外に出すかを段階で切り分けるほうが費用も判断も追いやすくなります。

一度組み替えたフローは、どれくらいの頻度で見直しますか?

日付で区切るより、出来事に紐づけるほうが続きます。使うシステムを入れ替えたとき、承認する担当が変わったとき、業務が別部門へ移ったときの3つを見直しの合図にします。加えて、委譲した工程で人が手直しする回数が増えていないかを見ます。手直しが増えているなら、業務の前提が変わったのに指示の中身が前のままになっている合図です。