リスキリング助成金と呼ばれているのは、厚生労働省の人材開発支援助成金のうち「事業展開等リスキリング支援コース」のことで、社員のAI研修にも使えます。社内のDX化などに必要な10時間以上のOFF-JT(業務を離れて受ける研修)が対象で、中小企業なら研修の経費の75%と、受講時間1時間あたり1人1,000円の賃金助成を受けられます。使うには、訓練開始日の6か月前から1か月前までに計画届を管轄の労働局へ出しておく必要があり、研修を始めてから申請することはできません。

2026年10月時点の情報です。数字は厚生労働省の事業展開等リスキリング支援コースと人への投資促進コースの案内(いずれも令和8年4月8日版)によります。コースのページでは詳細版のパンフレットと支給要領が令和8年8月3日版に改められているため、申請の前に厚生労働省の人材開発支援助成金のページと管轄の労働局で最新の要件を確かめてください。

この記事の答え

  • いわゆるリスキリング助成金は人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースで、DX化のためのAI研修も対象です
  • 中小企業は経費の75%(1人あたりの上限あり)と1人1時間1,000円の賃金助成を受けられ、eラーニングや定額制のサービスは経費助成だけになります
  • 計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ出すので、研修の開始日から逆算して研修会社と日程を決めます

リスキリング助成金とは|人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コース

リスキリング助成金は正式な制度名ではなく、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースを指す通称です。人材開発支援助成金は、会社が社員に職務に関係する訓練を受けさせたときに、訓練の経費と受講中の賃金の一部を国が助成する制度で、目的ごとにいくつかのコースに分かれています。

申請できるのは雇用保険に入っている会社と社員

助成金を受け取るのは会社で、対象になるのは雇用保険の被保険者である社員です。雇用保険の適用事業所の事業主が、雇用保険に入っている社員に訓練を受けさせた場合に支給されます。役員や雇用保険に入っていないアルバイトだけが受ける研修は対象になりません。

AI研修で候補になる2つのコース

AI研修で候補になるのは、事業展開等リスキリング支援コースと人への投資促進コースの2つです。

コース 主な対象の訓練 中小企業の経費助成率 中小企業の賃金助成(1人1時間)
事業展開等リスキリング支援コース 新しい事業やDX化などに必要な10時間以上のOFF-JT 75% 1,000円
人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練) ITスキル標準・DX推進スキル標準のレベル3・4になる訓練など 75% 1,000円
人への投資促進コース(定額制訓練) サブスクリプション型の研修サービス 60% 支給要領で確認

社員全体に生成AIの使い方を教える研修や、部署の業務をAIで置き換えるための研修は、社内のDX化に必要な訓練として事業展開等リスキリング支援コースに当てはめるのが基本です。システムを作る側の専門人材を育てる長時間の訓練なら、人への投資促進コースの高度デジタル人材訓練も候補に入ります。

AI研修で使うコースの判断 3つの問いで、AI研修に人材開発支援助成金のどのコースを当てるかを決める ・上から順に答え、最初に結果の箱へ抜けたところで決まります 業務を離れて受ける研 修(OFF-JT)か このままでは対象外 ・研修の組み方を見直す いいえ はい DX化などのための10時 間以上の訓練か 事業展開等リスキリング支援コース ・中小企業は経費の75% はい いいえ DX推進スキル標準のレ ベル3・4になる訓練か 人への投資促進コース ・高度デジタル人材訓練 はい いいえ ほかのコースを労働局に相談 ・訓練の中身を見せて確かめる
DX化などのための10時間以上の研修なら、事業展開等リスキリング支援コースが第一候補です。

対象になるAI研修の条件|10時間以上のOFF-JT

事業展開等リスキリング支援コースの対象になるのは、次の3つをすべて満たす訓練です。

  1. 訓練時間が10時間以上1回の研修でなくても、計画した訓練全体の時間で数えます。2時間の講座を1回だけ受けさせる形では届きません。
  2. OFF-JTで行う通常の業務から離れて受ける研修です。仕事をしながら先輩に教わるOJTは対象外です。
  3. 職務に関係し、次のどれかに当たる新しい事業を始めるための訓練(訓練開始日から3年以内に始める予定か、6か月以内に始めたもの)、社内のDX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるために必要な訓練、人事・人材育成の計画に基づいて今後3年以内に就く職務に必要な訓練のどれかです。

AI研修は、3つ目のうち「社内のDX化を進めるために必要な訓練」で説明することが多くなります。計画届と一緒に出す事業展開等実施計画(様式第1-3号)に、研修で身につけたAIの使い方をどの業務の何に使うのかを書けるかが、対象になるかの分かれ目です。「AIの基礎知識を広く学ぶ」だけでは、職務との関係が説明しにくくなります。

研修の種類や費用の決まり方、どの研修を選ぶかといった一般論は、研修そのものを選ぶ段階で確かめます。

事業展開等リスキリング支援コースの助成率と上限

助成は、研修費などの経費に一定の率を掛ける経費助成と、受講した時間に応じて賃金の一部を出す賃金助成の2本立てです。中小企業か大企業かで率が変わります。

経費助成率と賃金助成の額

中小企業は経費の75%、大企業は60%が助成され、賃金助成は1人1時間あたり中小企業1,000円、大企業500円です。

区分 中小企業 大企業
経費助成率 75% 60%
賃金助成(1人1時間) 1,000円 500円
設備投資加算 導入費用の50% 対象外

設備投資加算は中小企業だけが使える上乗せで、上限は1人15万円、受講者が10人以上なら150万円です。対象になる設備や条件は支給要領で決まっているため、研修と一緒に機器をそろえる予定があるときは、計画届の前に労働局へ確かめます。

受講者1人あたりの経費助成の上限

経費助成には、受講者1人あたりの上限が訓練時間ごとに決まっています。

訓練時間 中小企業の上限 大企業の上限
10時間以上100時間未満 30万円 20万円
100時間以上200時間未満 40万円 25万円
200時間以上 50万円 30万円

中小企業が10〜99時間のAI研修を受けさせるなら、1人あたりの経費助成は30万円が限度額です。受講料が1人40万円でも75%の30万円がそのまま出るので、上限に収まります。1人50万円なら75%は37.5万円ですが、助成は30万円で止まります。1つの事業所が1年度に受け取れる額の上限は1億円です。

eラーニングと定額制サービスは経費助成だけ

eラーニング、通信制、定額制のサービスで受ける研修は、経費助成だけが出て、賃金助成は対象外です。上限も通常の研修とは別に決まっています。

受け方 中小企業の上限 大企業の上限
eラーニング・通信制 1人15万円 1人10万円
定額制サービス 1人1月2万円 1人1月2万円

動画で学ぶ生成AI講座を全社員に配るような研修は、eラーニングか定額制の扱いになりやすく、助成の上限は講師が教える研修より低くなります。

人材開発支援助成金でいくら戻るか|厚生労働省の活用例で計算する

厚生労働省の案内には、中小企業が30時間・1人30万円の訓練を3人に受けさせた場合の活用例が載っています。

項目 計算 助成額
経費助成 30万円 × 75% × 3人 67.5万円
賃金助成 30時間 × 1,000円 × 3人 9万円
合計 経費助成+賃金助成 76.5万円

この例では、研修費90万円のうち67.5万円が戻り、会社が負担する研修費は22.5万円です。賃金助成の9万円は、研修を受けている間の給与の一部にあたります。

自社のAI研修に当てはめるときは、次の式で見積もります(中小企業の場合)。

  • 経費助成 = 1人あたりの受講料 × 75%(1人あたりの上限まで)× 受講者数
  • 賃金助成 = 訓練時間 × 1,000円 × 受講者数(eラーニング・定額制は0円)

研修費はいったん全額を会社が払い、助成金は支給申請の審査を経てから入ります。予算は助成金を差し引く前の総額で確保しておきます。

人への投資促進コースとの使い分け|定額制訓練と高度デジタル人材訓練

人への投資促進コースは令和4年度から令和8年度までの期間限定のコースで、AI研修では定額制訓練と高度デジタル人材訓練の2つが関わります。

定額制訓練はサブスクリプション型の研修サービス向け

定額制訓練の経費助成率は中小企業60%、大企業45%で、賃金要件などを満たすと15%上乗せされます。上限は1人1か月2万円です。事業展開等リスキリング支援コースでも定額制サービスは経費助成の対象になるため、訓練がDX化のための訓練としても説明できるなら、2つのコースの率と上限を並べて、有利なほうで計画届を出します。

高度デジタル人材訓練は専門人材を育てる長い訓練向け

高度デジタル人材訓練は、ITスキル標準やDX推進スキル標準のレベル3・4になる訓練などが対象です。率は事業展開等リスキリング支援コースと同じく中小企業75%・大企業60%、賃金助成は1,000円・500円です。社員がAIを使う研修ではなく、AIの仕組みを作る側の人材を育てる訓練で使うコースです。

人への投資促進コースで1つの事業所が1年度に受け取れる額は2,500万円(成長分野等人材訓練は1,000万円)で、事業展開等リスキリング支援コースの1億円より小さくなります。計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までに出し、支給申請を訓練修了日の翌日から2か月以内に出す期限は、2つのコースで同じです。

DX推進スキル標準のロールや、社員の階層ごとに研修の中身を分ける考え方は、どのコースに当てはめるかを決める前に整理しておくと、計画届のカリキュラムが書きやすくなります。

リスキリング助成金の申請の流れと期限

申請は、社内の準備、計画届の提出、訓練の実施、支給申請の4段階で進みます。計画届は訓練開始日の1か月前が締切なので、研修を始めたい日から逆算して準備を始めます。

申請から受給までの流れ 社内の準備、計画届の提出、訓練の実施、支給申請の4段階で助成金を受け取る流れ ・計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前まで ・支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内 社内の準備 職業能力開発推進者の 選任 事業内職業能力開発計 画 ・作って社員に周知 計画届の提出 職業訓練実施計画届 ・事業展開等実施計画 ・対象労働者一覧 ・カリキュラム 管轄の労働局へ ・開始日の6か月前〜1か月 前 訓練の実施 OFF-JTで受講 経費を全額支払う ・支給申請より前に 支給申請 支給申請書と添付書類 ・OFF-JT実施状況報告書 ・出勤簿・賃金台帳の写し 助成金の受給
計画届は訓練開始日の1か月前までに労働局へ出します。
支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内です。

社内の準備と計画届の提出

計画届の前に、社内で職業能力開発推進者を選び、事業内職業能力開発計画を作って社員に知らせておきます。そのうえで、訓練開始日の6か月前から1か月前までに、次の書類を管轄の労働局へ出します。

順番 出すもの 中身
1 職業訓練実施計画届 どの訓練をいつ、何時間行うか
2 事業展開等実施計画(様式第1-3号) 訓練がどの事業展開やDX化のためか
3 対象労働者一覧 研修を受ける社員
4 カリキュラム 研修の科目と時間の内訳

計画届が訓練開始日の1か月前を過ぎると、その研修は助成の対象になりません。窓口は都道府県の労働局ごとに分かれているので、厚生労働省の助成金申請窓口の一覧で自社の管轄を確かめます。

訓練の実施と支給申請

研修を実施したら、支給申請の前に研修費を全額支払っておきます。支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内です。出す書類は次のとおりです。

  • 支給申請書
  • OFF-JT実施状況報告書
  • 雇用契約書の写し
  • 出勤簿や賃金台帳の写し
  • 研修費を払ったことが分かる振込通知書

出勤簿と賃金台帳は、受講した時間に給与を払っていたことを示すために使います。研修の日に誰が何時間受けたかを、研修会社の出席記録と社内の勤怠の両方で残しておくと、報告書が書きやすくなります。

研修会社と決める段取り

研修の開始日は、計画届の締切である1か月前より前に、研修会社からカリキュラムと時間の内訳を受け取れる日で決めます。研修会社に頼むのは次の3つです。

  1. 科目ごとの時間が分かるカリキュラム。10時間以上あること、OFF-JTであることが読み取れる形でもらいます
  2. 自社の業務で使う題材を入れた研修の中身。事業展開等実施計画に書く「どの業務のDX化か」と話がつながります
  3. 受講者ごとの出席の記録。支給申請の報告書で使います

たとえば4月に研修を始めたいなら、研修会社との打ち合わせは1月から2月に始め、カリキュラムを固めてから2月中に計画届を出す、という順になります。研修会社を比べて選ぶ段階なら、研修の型ごとの違いを先に見ておきます。

Claude Codeのような開発用のAIツールの研修で助成金を使う場合も、確かめる点は同じです。

個人向けの制度との違い|キャリアアップ支援事業は会社の研修費を出さない

リスキリングの名前が付く国の制度には個人向けのものもあり、会社の研修費を助成するのは人材開発支援助成金のほうです。経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、在職者へのキャリア相談、リスキリング、転職支援を一体で行う事業者を補助する個人向けの事業で、会社が社員に受けさせる研修の費用を助成するものではありません。

個人の社員が自分で申し込んでも人材開発支援助成金は受け取れず、申請するのは会社です。社員に「リスキリングの補助が出るらしい」と聞かれたら、会社の研修として受けるのか、個人で学び直すのかで、使う制度が変わると伝えます。

都道府県や市区町村にも、中小企業の研修費を助成する独自の制度があります。対象や併用できるかは自治体ごとに違うため、本社のある自治体の産業振興の窓口で確かめます。

助成金で研修をしても業務でAIが使われるとは限らない

助成の対象はOFF-JTの研修だけで、研修のあとにAIを業務へ組み込む作業は対象外です。研修で学んだ使い方が、職場の手順や承認の流れに入らなければ、しばらくすると元のやり方に戻りやすくなります。

研修を企画する段階で、受講後に次のことを誰が進めるかを決めておきます。

  • 研修で扱った業務のうち、最初にAIを使う1つの業務
  • その業務の手順書や社内ルールを、AIを使う前提で書き直す担当
  • 受講後1〜2か月の間に、つまずいた点を相談できる相手

研修の成果を測る指標や、次の研修予算を出す判断の基準も、研修を発注する前に決めておくと、助成金を使った研修の効果を社内で説明できます。

AIを業務で使える人を社内で増やす全体の進め方は、研修と業務での実践を組み合わせて設計します。

研修とは別に、業務で使うAIツールの導入費には、人材開発支援助成金ではなく補助金を当てます。

まとめ:リスキリング助成金は計画届の期限から逆算してAI研修に使う

  • リスキリング助成金は人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースのことで、DX化のための10時間以上のOFF-JTならAI研修も対象になる
  • 中小企業は経費の75%(10〜99時間の訓練は1人30万円まで)と1人1時間1,000円の賃金助成、大企業は60%と500円
  • eラーニング・通信制・定額制のサービスは経費助成だけで、上限も低い
  • 専門人材を育てる訓練なら、人への投資促進コースの高度デジタル人材訓練も候補になる
  • 計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前まで、支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内
  • 会社の研修費を助成する制度で、個人向けのキャリアアップ支援事業とは別物

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よくある質問

計画届を出した後で、受講者や研修の日程を変えられますか?

変えられる場合がありますが、変更の届出が要るかどうか、いつまでに出すかは変更の中身で決まります。受講者の入れ替えや開始日の後ろ倒しが起きそうなら、変更が決まった時点で管轄の労働局に連絡し、必要な手続きを確かめます。届け出ないまま研修を進めると、計画と違う訓練として扱われ、助成を受けられないおそれがあります。

助成金はいつごろ振り込まれますか?

支給申請を出してから審査を経て支給が決まるため、研修費を払ってから入金までには数か月の間が空くと考えておきます。審査にかかる期間は労働局ごとの申請の混み具合でも変わり、一律の日数は示されていません。研修費は全額を先に会社が払うので、予算は助成金を差し引かない総額で確保しておくと資金繰りで困りません。

社労士や研修会社に申請を任せてもよいですか?

書類づくりを社会保険労務士に頼むことはできます。ただし、どの職務のための訓練か、受講者がその後どの業務に就くかは会社にしか書けず、出勤簿や賃金台帳も会社が用意します。研修会社に頼めるのは、カリキュラムや訓練時間が分かる資料、受講の記録づくりまでと考え、申請の責任は事業主に残ることを前提に分担を決めます。

AIツールの導入費やライセンス代も助成の対象になりますか?

人材開発支援助成金は研修(訓練)の経費と受講中の賃金を助成する制度で、業務で使うAIツールの導入費や利用料は対象になりません。ツールの費用には、デジタル化・AI導入補助金のような別の補助金を当てます。研修とツール導入を同じ時期に進めるなら、2つの制度の締切と対象経費を別々に確かめ、同じ費用を二重に申請しないようにします。

過去に同じ社員が助成を受けた研修を、もう一度受けさせても対象になりますか?

受講の回数や同じ内容の訓練の繰り返しには制限があり、条件はコースごとの支給要領で決まっています。同じ社員に段階を上げた研修を続けて受けさせる計画なら、過去に助成を受けた訓練の名前と時期を労働局に伝え、対象になるかを計画届を出す前に確かめておきます。