外部研修のあとに残る問題
外部の生成AI研修を実施すると、その回の参加者の前提は揃います。ただし数か月経つと、同じ説明をもう一度必要とする場面が出てきます。中途入社の人が入る、別の部門へ広げる、担当者が異動する、といった理由です。
そのたびに外部へ依頼すると、費用は回数分だけ積み上がります。それ以上に問題なのは、実施までの期間です。日程調整と題材のすり合わせに数週間かかるため、必要になった時点からすぐには実施できません。入社した人が3か月待つ状態が続くと、その間は各自が周りに聞いて覚えることになり、部署ごとに扱い方がばらつきます。
社内で回せる状態にすると、この2つが解消します。一方で、講師役の時間、教材を作り替える手間、内容を古くさせないための更新が社内の負担として発生します。移すかどうかは、この交換に見合うかで判断します。
外部研修を続ける場合と社内研修へ内製化する場合
同じ研修を継続する前提で、両者の違いを並べます。1回だけ実施して終わりにする場合は比較の対象になりません。
| 見る点 | 外部に任せ続ける | 社内で回す |
|---|---|---|
| 費用の掛かり方 | 実施のたびに発生する。人数や回数で積む | 初回に教材を作り替える時間が掛かり、2回目以降は講師役の時間だけになる |
| 実施までの期間 | 日程調整と題材のすり合わせで数週間 | 講師役の予定が空けば数日で実施できる |
| 扱える題材 | 事前に伝えた範囲。当日出た別の業務には踏み込みにくい | 参加者が持ち込んだ業務をその場で扱える |
| 例外への対応 | 社内の事情を知らないため、一般的な説明に寄る | 実際の運用を知っている前提で答えられる |
| 内容の鮮度 | 提供側が更新する。他社の事例が入る | 社内で更新しないと古くなる |
| 社内の負担 | 参加者の時間と、題材を渡す準備 | 参加者の時間に加えて、講師役の準備と更新の時間 |
費用だけで比べると社内が有利に見えますが、講師役の時間は他の業務から差し引かれます。実施1回あたりで、準備に半日から1日、当日に半日程度を見ておくと、外部への支払いと比べる土台が揃います。研修の費用の見方と提供形態ごとの違いは「法人向け生成AI研修の比較」で扱っています。
内容の鮮度は、社内で回す形にした場合の弱点です。外部の提供側は複数社の実施を通して教材を直しますが、社内にはその機会がありません。後半で扱う更新の担当と頻度を決めておかないと、1年後には画面と違う手順を説明することになります。
続けるか移すかを決める条件
内製化の可否は、研修の内容ではなく実施の回り方で決まります。次の条件を見て、満たしていない項目が残る間は外部研修を続けます。
| 見る条件 | 外部研修を続ける状態 | 社内研修へ移してよい状態 |
|---|---|---|
| 年間の実施回数 | 年1〜2回にとどまる | 受け入れと部門展開で年3回以上になる |
| 対象者の入れ替わり | 中途入社や異動が年に数人 | 毎月のように受け入れがあり、待ち時間が業務に響く |
| 題材にできる業務 | 週に複数回発生する業務が見つからない | 参加者が実施の当日に試せる業務がある |
| 講師役の候補 | 対象業務を自分で回した人が見当たらない | 候補が2人以上いて、時間の確保を上長と合意できる |
| 教材の更新担当 | 誰が見直すか決められない | 半年ごとの見直しを引き受ける部署が決まっている |
| 主に扱う内容 | 他社の使い方や新しい手法が中心 | 自社の利用ルールと業務手順が中心 |
全部が揃うまで待つ必要はありません。移す判断を左右するのは、上から1行目の実施回数と4行目の講師役の候補です。この2つが満たせないうちに移すと、初回は実施できても2回目の日程が決まらないまま止まります。
費用の掛かり方も、この条件で変わります。外部研修は実施のたびに支払いが発生し、回数に比例して積み上がります。社内研修は初回に教材を作り替える時間が掛かり、2回目以降は講師役の時間と半年ごとの更新に置き換わります。回数が少ないうちは前者の方が総額でも手間でも小さく、回数が増えるほど後者が有利になります。研修に限らず社内へ持つ範囲をどこまで広げるかは「生成AI・AIエージェントの内製化とは」で整理しています。
全部を移す形だけが選択肢ではありません。他社の使い方や社内の誰も試していない手法は社内では扱いにくいため、その部分だけ外部を年1回使い、受け入れと部門展開を社内研修で回す形も取れます。
いつ社内研修へ切り替えるか
外部から社内へ一度に切り替えると、初回の実施で内容が薄くなります。外部だけの状態、外部と社内が並走する状態、社内だけの状態を順に通します。
一度に切り替えると初回の実施で内容が薄くなります。
1つ目の判定を題材の選定に置いているのは、ここが講師役として最も難しい部分だからです。説明の仕方は教材があれば真似できますが、参加者にとって意味のある題材を選ぶには、対象の業務がどう回っているかを知っている必要があります。外部が題材を決めている間は、社内には準備の負担しか残りません。
2つ目の判定は、参加者から出た質問に答えられたかで見ます。教材に沿った説明が終わったあとの質問は、教材に書かれていない部分から出ます。ここで外部の講師に引き取ってもらった回数を数えておくと、社内だけで実施できる段階かどうかが分かります。
並走の段階をどれだけ続けるかは、実施回数で決めます。カレンダー上の期間で区切ると、その間に1回しか実施しないこともあります。最低2回、社内の担当者が一部を進行した実績を作ってから、社内だけの実施へ移します。
社内講師を誰から立てるか
講師役に向くのは、説明が上手い人ではなく、対象の業務を自分で回した経験がある人です。参加者が詰まる箇所は操作そのものではなく、自分の業務のどこに当てはめるかという部分に集中します。ここに答えられるかどうかが、実施の価値を分けます。
| 候補の出どころ | 向いている点 | 補う必要がある点 |
|---|---|---|
| 対象業務を実際に回している担当者 | 参加者と同じ前提で話せる。例外の扱いを知っている | 教える経験が無い。進行の時間配分を最初は外部と組む |
| 情報システムの担当者 | ツールの設定とデータの扱いに答えられる | 業務の中身を知らないため、題材の選定は業務側と組む |
| 社内の推進担当・企画部門 | 全社の方針と接続できる。日程と対象者を動かせる | 自分の手で作った経験が乏しいと、質問に踏み込めない |
| 教育・研修の担当部門 | 進行と教材の整え方に慣れている | AIを使った業務の経験が無いと、説明の読み上げになる |
1人で全部を満たす候補は多くありません。業務を回している担当者を進行役に置き、ツールの設定に関する質問は情報システムの担当者が答える形にすると、それぞれの補う点が埋まります。2人以上で持つ形は、異動があったときに実施が止まらない利点もあります。
講師役を務める時間を業務として置く
講師役が続かなくなる原因のほとんどは、時間の扱いです。通常業務に上乗せする形にすると、繁忙期に準備が間に合わず、前回の資料をそのまま使うことになります。それが2回続くと、内容が実態と合わなくなります。
実施1回あたりに必要な時間を見積もり、上長との間で業務時間の中に置く合意を取ります。研修の日程を決めるより先にこの合意を取っておくと、開催の直前に準備時間が確保できない事態を避けられます。
参加者の中から次の講師役を決める
1人目の講師役を立てた時点では、まだ実施は止まりやすい状態です。参加者の中から、次に進行を担当する人を実施のたびに1人決めておきます。すべてを引き継ぐ必要はなく、教材の一部を説明する役から始めます。
誰が何を説明できるかを記録に残しておくと、異動や退職があったときに引き継ぎ先を探す手間が減ります。育成の到達段階と判定の置き方は「非エンジニアがAIを作れるようになるまで」で扱っています。
教材を自社の業務へ作り替える
外部の教材をそのまま社内で使い回せることは多くありません。実施の契約に教材の利用範囲が定められており、社内での改変や再配布が認められていない場合があるためです。並走の段階へ入る前に、次の3点を提供側へ確認します。
- 教材を社内で改変できる形(編集可能なファイル)で受け取れるか
- 受け取った教材を、参加していない部門の実施でも使ってよいか
- 使ってよい期間に制限があるか
改変が認められない場合は、教材の構成だけを参考にして社内で作り直します。作り直す範囲を全部にする必要はありません。教材は、外部の内容をそのまま使える部分と、社内の情報へ差し替える部分に分かれます。
| 教材の部分 | 外部の内容をそのまま使えるか | 社内で差し替えるもの |
|---|---|---|
| 生成AIの仕組みと得意・不得意の説明 | ほぼそのまま使える | 自社で実際に扱った例を1つ足す |
| ツールの操作手順 | 画面が変わるまでは使える | 自社で契約しているプランで使える機能の範囲に合わせる |
| 指示の書き方 | 考え方は使える | 例文を自社の業務の言い回しに置き換える |
| 扱ってよいデータの範囲 | 使えない | 自社の利用ルールと、判断がつかないときの相談先を書く |
| 演習の題材 | 使えない | 実際に発生している業務から選ぶ |
| うまくいかないときの対処 | 一般的な内容は使える | 社内で実際に出た質問と回答を追記していく |
差し替えの優先順位は上から下ではありません。最初に手を付けるのは、扱ってよいデータの範囲と演習の題材です。この2つが外部の教材のままだと、参加者は自分の業務に持ち帰れません。仕組みの説明や操作手順は、外部の内容のまま使っても実施は成立します。
社内で実際に出た質問と回答を追記していく行は、実施を重ねるほど価値が出ます。同じ質問は複数の部門で繰り返し出るため、記録しておくと次回の説明に組み込めます。データの扱いに関する判断手順の作り方は「生成AIの社内利用ルールをどう作るか」で整理しています。
演習の題材を実務から選ぶ
演習の題材は、架空の例題ではなく実際に発生している業務から選びます。架空のデータは形式が整っているため、その場では動きますが、実務に戻った時点で書式の揺れや欠けた項目に当たって止まります。
題材を選ぶときは、次の順で絞ります。
| 見る点 | 選ぶ条件 | 外す条件 |
|---|---|---|
| 発生する件数 | 週に複数回以上あり、参加者が結果をすぐ確かめられる | 月1回や四半期に1回で、実施後に試す機会が来ない |
| 手順の決まり具合 | 誰がやっても同じ結果になる部分が半分以上ある | 担当者の判断が中心で、正解が人によって変わる |
| 扱うデータ | 参加者が普段から見ている範囲に収まる | 権限の申請が必要で、当日までに用意できない |
| 結果の確認 | 正しいかどうかを参加者自身が判断できる | 別の部署に確認しないと合っているか分からない |
| 失敗したときの影響 | 演習の中で完結し、実際の処理には流れない | 出力がそのまま外部や他部署へ渡る |
最後の行は実施の設計として外せません。実務の題材を使うということは、本物のデータを扱うということです。演習で作ったものが実際の処理に流れない形にしておかないと、参加者は失敗を避けようとして踏み込んだ操作をしません。
件数の条件を満たす業務が見つからない場合は、対象の部門を変えます。無理に月次の業務を題材にすると、実施から次の発生まで時間が空き、覚えた手順を思い出すところからやり直しになります。最初の1業務の絞り込み方は「生成AI内製化の最初の1業務の選び方」で扱っています。
参加者が自分で題材を持ち込む形にすると、当日の準備が読めなくなります。並走の段階では講師役が題材を用意し、社内だけの実施に移ってから持ち込みを認める順序にすると、進行が破綻しにくくなります。
教材の更新を担当と頻度で決める
社内で回す形にした場合、内容が古くなる速度は誰も管理していません。誰が、いつ、何をきっかけに見直すかを決めておきます。
| 更新のきっかけ | 頻度の目安 | 主に触る部分 |
|---|---|---|
| 使っているツールの画面や機能が変わった | 気付いた時点。実施の直前に確認する | ツールの操作手順、使える機能の範囲 |
| 社内の利用ルールが変わった | 変更の連絡を受けた時点 | 扱ってよいデータの範囲、相談先 |
| 実施で同じ質問が繰り返し出た | 実施のたびに記録し、3回目で教材へ反映 | うまくいかないときの対処、指示の書き方の例 |
| 題材にしていた業務の手順が変わった | 実施の前に担当者へ確認 | 演習の題材、例文 |
| 全体の見直し | 半年に1回 | 構成そのもの。使われていない部分を削る |
このうち、実施の直前に確認する行は担当を決めやすい部分です。講師役が自分の準備の一環として行うため、別の担当を置く必要がありません。難しいのは全体の見直しで、実施の予定が無い時期に作業が発生するため、後回しになります。半年ごとの日付を決めて予定に入れておく形が実際には続きます。
更新の記録は、教材と同じ場所に日付付きで残します。次の担当者が引き継いだときに、どの部分がいつ確認されたものかが分かる状態にしておくと、全部を見直す必要がなくなります。
見直しで削る作業も同じくらい重要です。実施を重ねると、質問への回答が追記され続けて教材が伸びます。時間内に終わらなくなると、後半の説明が省かれ、参加者によって受け取った内容が変わります。使われていない部分は削り、参照先として別のページに置きます。
移行の途中でつまずく箇所
外部から社内へ移す途中で止まる原因は、講師役の力量よりも運営の側にあることが多いです。
実施の依頼が来なくなる。 外部への発注は予算の手続きを伴うため、実施の予定が組織として決まります。社内で回す形にすると、その手続きが無くなり、誰も日程を決めないまま時間が過ぎます。四半期に1回など、開催の周期を先に決めておきます。
参加者が集まらない。 外部の研修は費用が発生している分、参加が業務として扱われます。社内実施に変わると優先度が下がり、当日の欠席が増えます。開催の周期と合わせて、対象者の範囲を人事や各部門の長との間で決めておきます。
教材の置き場所が分からなくなる。 講師役の個人のフォルダに置かれたままだと、担当が変わった時点で見つかりません。誰でも開ける場所に置き、その場所を関係者へ知らせておきます。
これらは全社へ展開する段階で同じ形の問題として現れます。展開の順序と定着の設計は「生成AIが一部の部署で止まる」で扱っています。
まとめ:生成AI研修を社内研修へ内製化するときの要点
- 移すかどうかは、実施のたびに掛かる費用と待ち時間を、講師役の時間と更新の手間と交換できるかで判断する
- 判断を左右するのは年間の実施回数と講師役の候補の2つ。この2つが満たせないうちは外部研修を続ける
- 全部を移す必要はない。他社の使い方は外部に年1回任せ、受け入れと部門展開を社内研修で回す形も取れる
- 外部だけ、外部と社内の並走、社内だけの3段階を通す。判定は、社内が題材を選べたか、進行した時間で質問に答えられたかで置く
- 講師役は説明が上手い人ではなく、対象業務を回した経験のある人から立てる。ツールの設定に答える役と分けて2人以上で持つ
- 講師役の時間を業務時間の中に置く合意を、日程を決めるより先に取る
- 教材は全部を作り直さない。扱ってよいデータの範囲と演習の題材を先に差し替える
- 題材は件数が多く、手順が決まっていて、結果を参加者自身が確認できる業務から選ぶ
- 更新は、きっかけと頻度と担当を表にして決める。半年に1回の全体見直しは日付を先に予定へ入れる
Augueでは、実際の業務を題材にした生成AIの研修と、社内で講師役を立てて回せる状態にするまでの伴走支援を行っており、教材の作り替えから更新の設計までを一緒に進めています。外部研修をいつまで使い、どこから社内へ移すか整理したい方は、是非ご相談ください。
社内でAIを使いこなせる人を育てませんか?
よくある質問
何人規模の会社なら社内で回す形が成り立ちますか?
人数より、同じ研修を年に何回実施するかで決まります。年1回で終わるなら、講師役の準備時間を回収できず外部に依頼した方が負担は小さくなります。新入社員や中途入社の受け入れ、部門ごとの展開で年3回以上になるなら、社内で持つ形が現実的な範囲に入ります。従業員数が少なくても入れ替わりが多い組織では、回数の条件を先に満たすことがあります。
社内講師に手当や評価上の扱いを付けるべきですか?
金額より先に、講師役に使う時間を業務として認める形を作ります。手当だけ付けて時間の扱いが曖昧なままだと、通常業務の後回しになり、準備が間に合わない状態が続きます。時間の確保が上長との間で合意できていれば、手当の有無にかかわらず実施は回ります。評価に載せるかどうかは、2回目の実施まで運用してから判断しても遅くありません。
教材を社内で作る場合、どんな形式で持つのがよいですか?
差し替えの頻度が高い部分と低い部分を別のファイルに分けておくと維持しやすくなります。スライド1本にまとめると、画面の変更で1枚を直すたびに全体を開くことになります。手順の説明と、演習の題材と、社内のルールに関する部分を分けて置き、更新のときに触る範囲を限定できる形にします。社内の誰でも開いて編集できる場所に置くことも条件になります。
外部の講師に社内講師の育成まで依頼できますか?
契約の内容しだいです。実施を請け負う形の契約には、社内講師の育成は含まれないことが一般的です。依頼するなら、実施の見積を取る段階で、教材を改変できる形で受け取れるか、社内の担当者が進行を担当する回に同席してもらえるかを条件として伝えます。実施後に追加で依頼すると、教材の権利の扱いを理由に断られることがあります。
社内研修に移したあと、誰が受講済みかはどう管理すればよいですか?
外部へ発注している間は、実施のたびに参加者の名簿が請求や報告と一緒に残ります。社内で回す形にすると記録が講師役の手元にしか残らず、次の回で誰を呼ぶかが分からなくなります。実施日と参加者を1つの表に追記する形にして、入社手続きや異動の連絡と突き合わせられる場所へ置きます。受講を評価に使わない場合でも、抜けている人を拾うために必要になります。
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