AI人材育成は、研修の本数を増やすことではなく、「どの業務を、誰が、AIを使って作り変えられる状態にするか」を先に決めることから始めます。生成AIが業務で使える道具になったいま、育成の対象は開発者だけではありません。業務の手順と例外を知っている非エンジニアが、AIを使って自分の業務を組み直せるようになると、研修の効果が業務の変化として残ります。以下では、人材像の置き方、育成の5ステップ、研修のあとの実務適用、評価と処遇への反映までを順に整理します。

AI人材とは何か|IT人材・DX人材との違い

AI人材とは、AIの仕組みを理解したうえで、業務や製品にAIを組み込み、その成果に責任を持てる人のことです。

似た言葉にIT人材とDX人材があります。IT人材はシステムの開発・運用を担う人を広く指し、AIを扱うかどうかは問いません。DX人材はデジタル技術で事業や業務の形を変える人を指し、扱う技術はAIに限りません。AI人材はその中で、AIを使う前提で業務を設計し、動かし、直せる人に絞った呼び方です。

呼び方 主に担うこと AIとの関係
IT人材 システムの開発・運用・保守 扱う場合も扱わない場合もある
DX人材 デジタル技術を使った事業・業務の変革 手段の1つとしてAIを使う
AI人材 AIを業務や製品に組み込み、成果に責任を持つ AIの使い方と限界を理解していることが前提

違いを押さえておくのは、育成の目標を決めるときに混ざりやすいためです。「DX人材を育てる」と置くと範囲が広すぎて研修の題材が定まらず、「AIエンジニアを育てる」と置くと対象が一部の技術者に限られます。

AI人材の種類と、生成AIの時代に置く3段の人材像

従来の分類は研究・開発・活用の3つ

AI人材は、一般に次の3つに分けて説明されます。

  • 研究者新しいアルゴリズムやモデルを研究する人。大学や研究機関、一部の大企業の研究部門にいる
  • 開発者機械学習エンジニアやデータサイエンティストのように、モデルを作り、システムへ組み込む人
  • 活用・企画の担い手AIで解ける課題を見つけ、導入を企画し、業務へ定着させる人。AIプランナーと呼ばれることもある

多くの企業にとって、社内で育てる対象になるのは3つ目です。研究者を社内で育てる必要のある企業は限られ、開発者は採用や外部委託と組み合わせることが多いためです。

生成AIで「作る」ことの敷居が下がった

生成AIが業務で使えるようになり、3つ目の人材が担える範囲が広がりました。以前はモデルを作る段階で専門の開発者が必要でしたが、いまは既存のモデルに指示と社内の資料を渡すだけで、業務の一部を動かせます。ノーコードの開発環境や生成AIの開発支援ツールを使えば、プログラミング経験のない人でも、定型業務を処理するAIエージェントの形まで組めるようになっています。

その結果、育成で重みが増したのは「業務を知っている人」です。どの工程をAIに任せられるか、例外はどれくらいあるか、出力のどこを人が確認すべきかは、業務の担当者にしか分かりません。技術は後から補えても、業務の知識は後から補いにくいためです。

育成の目標は3段で置く

そこで、社内で育てる人材像を次の3段で置きます。

段 できること 社内での役割
活用する人 汎用の生成AIツールを、社内ルールの範囲で日々の作業に使える 全社員が目指す水準。使い方が揃うと、次の段へ上がる候補が見える
業務を設計する人 自分の業務を工程に分け、AIに任せる範囲と人が確認する範囲を決められる 各部署に1〜2名。何を作るかを決め、作る人へ要件を渡す
作って直せる人 決めた範囲を実際に組み、出力が想定と違ったときに直せる 初めは推進担当の周辺に数名。慣れてきたら部署側にも置く

2段目と3段目は同じ人が兼ねても構いません。業務を知っている人が自分で作れるようになるのが最も早く、非エンジニアの育成はこの形を目指します。

AI人材が足りないと言われる理由

AI人材の不足は、技術者の数が足りないという話だけではありません。社内で起きているのは、次のような状態です。

  • 研修は受けたが、自分の業務のどこに使えばよいかを決められる人がいない
  • 使い方を覚えた人はいるが、業務の手順ごと組み直す権限や時間を持っていない
  • 作れる人が1人だけいて、その人が異動すると止まる

いずれも、外から技術者を採用しても解消しません。業務を知っている人が設計と作る工程に関われる状態を、育成と体制の両方で作る必要があります。

必要なスキルは段ごとに分けて考える

AI人材に必要なスキルとしてよく挙がるのは、機械学習の知識、プログラミング、データサイエンス、論理的思考、法律やガバナンスの知識です。ただ、これを全員に求めると育成の範囲が広がりすぎます。段ごとに、どこまで要るかを分けます。

スキル 活用する人 業務を設計する人 作って直せる人
AIの仕組みと限界の理解 誤りが出る前提で使えること 任せる範囲の判断に使える程度 誤りの原因がどこにあるかを見つけられる程度
業務の分解と論理的思考 必須ではない 中心になるスキル 設計を読み解ける程度
プログラミング・開発環境 不要 不要 ノーコードか簡単なスクリプトを扱える程度
データの扱い 入力してよい情報の判断 必要な資料と例外の洗い出し 資料の整え方と精度の確認
法律・ガバナンス 社内利用ルールの理解 個人情報や契約上の制約の確認 権限と記録の設計

表で見ると分かるように、機械学習の理論やプログラミングが中心になるのは3段目の一部だけです。2段目の中心は業務を工程に分ける力で、これは業務経験が長い人ほど早く身に付きます。

ガバナンスの知識は、全段で要ります。どの情報を入力してよいかが分からない状態では、使える場面が限られ、育成が進みません。育成を始める前に社内の利用ルールを整えておきます。

AI人材育成の5ステップ

育成は、次の5ステップで進めます。最もつまずきやすいのは、4つ目の実務への適用です。

AI人材育成の5ステップと、人が判断する箇所 人材像の定義、現状のスキル把握、カリキュラム作成、実務への適用、社内コミュニティづくりの5つを順に進む。人材像の定義では育てる段と対象業務を人が決め、実務への適用では作ったものを業務で使えるかを人が判定する。判定で使えないとなればカリキュラムへ戻る。 育成の工程 人が決める・判定する 1. 人材像の定義 2. 現状の把握 3. カリキュラム 4. 実務への適用 5. コミュニティ 育てる段と 対象業務を決める 段ごとに今の できることを測る 研修と題材を 段に合わせて組む 自部署の業務で 1本作り、判定する 作った人同士で 事例と直し方を共有 業務で使えなければ題材か教え方を見直す 次の対象者と業務を決め直し、2人目・2つ目の業務へ広げる
人が判断するのは、何を育てるかを決める1つ目と、業務で使えるかを判定する4つ目です。
判定で止まったときは、カリキュラムの題材か教え方へ戻します。

ステップ1:人材像と対象業務を決める

先に決めるのは、どの段の人を、何人、いつまでに増やすかです。このとき、段だけでなく対象にする業務も一緒に決めます。「業務を設計する人を5人」と置くだけでは、何を題材に育てるかが決まりません。「月の件数が多い定型業務を持つ部署から1名ずつ、その業務を題材に」と業務まで書くと、次のステップの題材が決まります。

ステップ2:現状のスキルを段ごとに測る

アンケートで「生成AIを使ったことがあるか」を聞くだけでは、段の判定に使えません。段ごとに、成果物で確認できる問いに置き換えます。活用する人なら「社内ルールに沿って、決まった作業を1人で通せるか」、業務を設計する人なら「自分の業務を工程に書き出し、AIに任せる工程を選べるか」です。この時点の結果が、研修後の比較の起点になります。

ステップ3:カリキュラムを段に合わせて組む

全社員に同じ内容を流すのではなく、段ごとに扱う内容と時間を変えます。活用する人向けは短時間の研修と社内ルールの説明で足り、業務を設計する人向けは自分の業務を題材にした演習が中心になります。

ステップ4:実務へ適用する

研修の最後に演習をして終わりにせず、研修のあとの数週間で、受講者が自分の業務で1本作るところまでを育成の工程に含めます。「実践の場を用意する」と一言で済ませてしまいがちな工程ですが、業務が変わるかどうかはここで決まります。進め方は次の節で詳しく書きます。

ステップ5:社内のコミュニティを作る

作った人同士が、うまくいった題材と直し方を共有する場を作ります。目的は交流ではなく、次の題材の候補と、よく起きる誤りの直し方を社内に貯めることです。月1回、作ったものを見せ合う会を開き、そこで出た題材を次の対象者の候補にすると、ステップ1へ戻る流れがつながります。

どの部署の誰から育てるか

最初の対象は、全部署から均等に選ぶより、題材にしやすい業務を持つ人から選ぶ方が早く成果が出ます。部署の名前で選ぶのではなく、業務の性質で見ます。

見る条件 向いている状態 最初は避ける状態
業務の件数 同じ種類の処理が月に数十件以上ある 月に数件しか発生しない
手順の決まり方 手順書があるか、担当者が口頭で説明できる 担当者ごとにやり方が違い、判断の根拠が言葉にならない
誤りの影響 人が最後に確認すれば誤りを止められる 誤りがそのまま社外や決算に出る
本人の立場 その業務の担当者で、手順を変えてよい裁量がある 業務を知らない人、または手順を変える権限がない人
上長の関与 業務時間の一部を育成に充てることを上長が認めている 空き時間での参加が前提になっている

件数が多い業務を選ぶのは、作ったものを試す機会を多く取れるためです。月に数件の業務では、直して試す機会が少なく、判定までに時間がかかります。

本人の立場の条件は見落とされがちです。手が空いている人や若手を選ぶと、題材にした業務の手順を変える権限がなく、作ったものが使われません。業務の担当者で、手順を変えてよい人を選びます。

研修のあとに自部署の業務で1本作らせる工程

実務適用は、次の順で進めます。期間の目安は題材の件数によって変わりますが、1本を作り終えるところまでを育成の工程として計画に入れておきます。

  1. 題材を1つに絞る研修の最終回で、受講者が自分の担当業務から1つ選ぶ。複数を並行させると、止まったときに原因が分からなくなる
  2. 工程を書き出すその業務を工程に分け、AIに任せる工程と、人が確認する工程を分ける。ここで上長か推進担当が一度見て、範囲が広すぎないかを確認する
  3. 小さく作って試す実際の業務データで試す。演習用のデータでは例外が出てこないため、ここで初めて扱いに迷う入力に当たる
  4. 誤りを直す出力が想定と違ったとき、原因が指示の書き方か、渡した資料か、工程の分け方かを見つけて直す。詰まったときに聞く相手を事前に決めておく
  5. 業務で使い、判定を受ける本人の業務で一定期間使い、手戻りなく回るか、本人以外が使っても質問に答えて直せるかを見て判定する
  6. 記録を残す何を作り、どこを直したかを残す。次の対象者の教材になり、社内でAIを管理するときの台帳にもなる

2つ目の工程で範囲を確認するのは、最初の1本で業務全体を置き換えようとして止まる例が多いためです。業務のうち1工程だけでも、毎回の作業が減れば成果として十分です。

6つ目の記録は、育成のためだけでなく管理のためにも要ります。部署ごとに作ったAIが増えると、誰が何を動かしているかが分からなくなります。

育成方法をどう組み合わせるか

育成方法は、社内教育、外部研修、自己学習、外部委託の4つに分けられます。どれか1つに寄せるより、段と工程ごとに使い分けます。

方法 向いている場面 単独で使うと起きること
社内教育(社内講師・勉強会) 社内ルールの説明、自社の業務を題材にした演習 教えられる人が少ないうちは、講師役に負荷が集中する
外部研修 活用する人の底上げ、仕組みと限界の基礎知識 題材が一般的な例になり、自部署の業務に移せない
自己学習(eラーニング・書籍) 基礎知識の予習、受講前の前提を揃える 続く人と続かない人の差が開き、段の判定に使えない
外部委託・伴走支援 最初の数本を作る工程、実務適用での詰まりの解消 作る工程を任せきりにすると、社内に直せる人が残らない

組み合わせの基本は、基礎を外部研修と自己学習で揃え、実務への適用を社内と伴走支援で進める形です。

外部委託を使う場合は、作るところを任せるのではなく、社内の対象者が作る横で詰まりを解く形にします。支援が終わったときに社内に残るのは、自分で作って直した経験だけです。

評価と処遇にどう反映するか

育成を業務の一部として続けるには、評価と処遇に接続する必要があります。接続がないと、育成に時間を割くほど本来の業務の成果が下がり、本人にとって損になります。

評価は成果物と使われ方で見る

評価の対象にするのは、受講した研修の数ではなく、作ったものと、それが業務で使われているかです。具体的には次のような項目を置きます。

  • 自分の業務で作ったものの本数と、業務で使われ続けている期間
  • 本人以外が使っている件数と、出た質問への対応
  • 次の対象者への教え方や、コミュニティでの共有

作った本数だけを数えると、使われないものが増えます。使われ続けているかを併せて見ると、題材の選び方が慎重になります。

処遇への反映は判定が安定してから

段の判定結果を昇格や手当にすぐ結び付けると、判定が甘くなるか、逆に申請をためらう方向へ働きます。まずは半年ほど判定を運用し、同じ基準で複数人を判定できることを確かめてから、人事制度に載せる順序にします。

載せるときは、段ごとの役割を等級やキャリアパスの中に書き込みます。業務を設計する人を部署内の役割として定義し、評価面談で扱う項目に加えるだけでも、上長が育成に時間を割く理由になります。

育成を成功させるポイントと注意点

AI人材育成でよく挙がる成功のポイントを、ここまでの進め方に沿って並べると次のようになります。

論点 押さえること 抜けたときに起きること
経営層の関与 育成に業務時間を充てることを経営が認め、目標を示す 現場の上長が時間を出さず、空き時間の参加になる
目的の明確化 育てる段と対象業務を決めてから研修を選ぶ 研修の受講者数だけが成果として残る
評価制度とキャリアパス 作ったものと使われ方を評価に入れる 育成に時間を割くほど本人が損をする
実践の場 研修のあとに自部署の業務で1本作る工程を計画に入れる 研修が終わると元の手順に戻る
体制づくり 詰まったときの相談先と、作ったものの管理者を決める 作れる人が1人に集中し、異動で止まる
社内への周知 作ったものと効果を社内で見せる 次の対象者が集まらず、2人目に広がらない

特に注意したいのは、目的の明確化と実践の場の2つです。目的が決まらないまま研修を始めると、研修会社の標準の内容がそのまま目標になります。実践の場を計画に入れないと、研修の満足度は高くても業務は変わりません。

最初の半年の計画を立てる

ここまでの内容を、最初の半年の計画に落とします。月の区切りは目安で、題材の件数に合わせて前後させます。

時期 やること この時点で決まっていること
1か月目 社内利用ルールの整備、育てる段と対象業務の決定、対象者の選定 対象者の名前と題材の業務、上長の了承
2か月目 現状のスキル把握、全社向けの活用研修、対象者向けの演習 段ごとの現状と、研修後に比べる指標
3〜4か月目 対象者が自部署の業務で1本作る実務適用 作ったものの範囲と、詰まったときの相談先
5か月目 業務で使った結果の判定、記録の整理、社内での共有会 判定の結果と、次の対象者と題材の候補
6か月目 2人目の対象者と2つ目の業務の選定、評価項目の試し運用 次の半年の対象と、人事制度に載せるかの判断材料

半年で目指すのは、全社員を育てることではなく、業務で使われているものが数本あり、それを作って直せる人が社内に複数いる状態です。その状態ができると、次の半年は対象者を増やす計画として立てられます。

まとめ:研修で終わらせず、業務で作れる人を増やす要点

  • AI人材は、IT人材やDX人材と違い、AIを業務に組み込んで成果に責任を持つ人を指す。社内で育てる中心は活用・企画の担い手
  • 生成AIの時代の育成対象は開発者だけでなく、業務を知っている非エンジニア。人材像は活用する人、業務を設計する人、作って直せる人の3段で置く
  • 育成は人材像の定義、現状の把握、カリキュラム、実務への適用、コミュニティの5ステップで進め、実務への適用を計画に必ず入れる
  • 最初の対象は、件数が多く手順が決まった業務の担当者で、手順を変える裁量がある人から選ぶ
  • 評価は作ったものと使われ方で見て、処遇への反映は判定が安定してから行う
  • 最初の半年は、業務で使われているものが数本あり、作って直せる人が複数いる状態を目標にする

Augueでは、育てる人材像と対象業務の決定から、研修のあとに受講者が自部署の業務で作る工程への伴走まで、社内に作れる人を残す形でAI人材育成を支援しています。自社の育成計画をどこから組むか検討されている方は、是非ご相談ください。

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弊社では具体的な要件が固まっていない段階でも、無料相談で現状をお聞きしていますので、お困りの際はご相談ください。

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よくある質問

AI人材育成にはどれくらいの費用がかかりますか?

一律の金額は出せません。外部研修の受講料より、受講者が業務時間を割く分の人件費の方が大きくなることが多いためです。見積もるときは、対象人数に1人あたりの育成時間と時間単価を掛けた社内工数を先に出し、そこへ外部研修や伴走支援の費用を足します。研修費だけで予算を組むと、実務適用の時間が確保できずに止まります。

資格や検定の取得を育成の目標にしてもよいですか?

知識の底上げを測る指標としては使えますが、到達点には向きません。検定で問われるのは用語や仕組みの理解で、自分の業務を切り出して動く形にできるかは測れないためです。取得を奨励する場合も、評価の中心は業務で作ったものと、それが使われているかに置き、資格は補助的な加点にとどめる方が運用がぶれません。

AIエンジニアを中途採用すれば育成は不要になりますか?

開発を担う人は採用で補えますが、業務側の担い手は採用では埋まりにくいです。どの工程をAIに任せ、どこを人が確認するかは、その業務を知っている人でないと決められません。採用した技術者が社内で力を出せるかどうかも、業務を設計する人が隣にいるかで変わります。採用と育成は置き換えではなく、役割を分けて併用するものとして考えます。