止まっている案件は、担当者の記憶の外にある

案件が失われる原因は、断られたことより、連絡が途切れたまま忘れられることの方が多く見られます。提案を送った直後に先方の体制が変わり、こちらは返信を待ち、そのまま次の商談へ意識が移ります。3週間後に思い出したときには、検討が別の方向へ進んでいます。

この抜けは、担当者の意識の問題として扱うと直りません。案件の一覧を開いても、止まっている案件は目立ちません。一覧に並ぶのは金額とフェーズと期日で、「最後にやり取りしたのはいつか」は列に出ていないか、出ていても手で更新された日付です。動いている案件と止まっている案件が同じ見た目で並んでいる限り、拾い上げは記憶に頼ることになります。

必要なのは、動きを機械が数えて、止まったものだけを目の前に出す仕組みです。判断は担当者が行い、機械は候補を並べるところまでを持ちます。

シグナルとして何を数えるかを決める

「動きがある」を定義するには、何をもって接触とするかを決めます。使えるものと、使うと判定が歪むものがあります。

シグナル 何が分かるか 判定に使うときの注意
送受信メールの日時と相手先 直近の接触日、こちらから送ったか先方から来たか 一斉配信や自動返信を接触に数えない
カレンダーの予定と実施の有無 面談の実績、次の予定が入っているか 仮押さえのまま消えた予定を実施と数えない
案件情報の更新履歴 担当者が案件を触った日 触っただけの更新を進展と読み替えない
活動履歴の登録 訪問・電話・提案の記録 入力されていない活動は無かったことになる
提案資料や見積の送付記録 検討の段階が進んだ時点 再送を新しい進展と数えない
先方からの資料閲覧・返信 相手側の反応 取得できない環境の方が多い。無い前提で組む

こちらから送ったメールと、先方から届いたメールは分けて数えます。同じ「接触」でも意味が違うためです。こちらが3回送って返信が無い案件は、双方でやり取りが続いている案件より止まっています。片方向の接触だけが続く状態は、日数の基準とは別に拾い上げる価値があります。

活動履歴の登録は、入力されている範囲でしか使えません。入力が滞りがちな組織では、まず記録が自動でたまる形を先に作る方が順序として早くなります。商談の記録から項目を取り出して案件情報へ反映する側の設計は 商談メモのCRM入力をAIで自動化する で扱っています。停滞の検知は、その記録がある前提の上に乗る仕組みです。

停滞と見なす条件を数値で置く

条件は「最終接触からの日数」だけでは足りません。日数が同じでも、次の予定が入っている案件と、何も決まっていない案件は状態が違います。次の3つを組み合わせます。

  • 最終接触からの日数 … 双方向のやり取り、面談、資料送付のいずれかが最後にあった日からの経過
  • 次アクションの有無 … 期日の入った予定またはタスクが先に入っているか
  • 金額と確度の組み合わせ … 拾い上げる優先度を決める。全件を同じ基準で出すと通知が多くなりすぎる

フェーズごとに日数の基準を変えます。初回接触の直後と、見積提示のあとでは、間が空いてよい長さが違うためです。基準の置き方の例を示します。実際の日数は自社の販売サイクルに合わせて決めます。

案件の状態 停滞と見なす条件の例 拾い上げたあとの扱い
初回接触・情報提供の段階 最終接触から21日、かつ次の予定が無い 一覧に出すだけ。個別の通知はしない
ヒアリング済み・提案準備中 最終接触から14日、かつ次の予定が無い 週次の一覧で担当者へ出す
提案・見積の提示後 最終接触から10日、または返信の無い送信が2回 担当者へ個別に通知する
条件交渉・稟議待ち 最終接触から7日、かつ次の予定が無い 担当者と上長の両方へ出す
金額が上位・確度が高い案件 上の条件の日数を短くする 個別に通知し、翌週も残っていれば再通知
期日切れの案件 クローズ予定日を過ぎて更新が無い 日付の見直しか、いったん保留へ移す判断を求める

日数の初期値は、過去に受注できた案件の接触間隔から決められます。うまくいった案件で最も長かった空白より少し短いところに置くと、拾いすぎずに済みます。過去の実績を見られない場合は上の例のような値から始め、通知に対して担当者が何もしなかった割合を見て調整します。

条件から外す案件も先に決めます。年に1回の更新時期まで動かない案件、先方の予算年度を待っている案件、長期の保守案件は、止まっているのが正常な状態です。「次に見る日」を案件側に持たせ、その日までは判定の対象から外します。この除外を用意しないと、同じ案件が毎週通知に出続け、通知そのものが読まれなくなります。

シグナルの収集から停滞の判定、案件情報の更新と担当者の確定までの流れ メール・カレンダー・案件情報から接触の記録を集め、日数と次アクションの有無で停滞を判定する。最終接触日や停滞の印は自動で反映し、確度やフェーズの変更は担当者が確定する。除外に該当する案件は判定から抜く。 機械が処理する 人が判断する 1. 接触を集める 2. 日数を数える 3. 条件で判定する 5. そのまま反映 6. 通知と一覧 4. 確認して確定 メール・予定・活動履歴 最終接触と次の予定 フェーズごとの基準 最終接触日・停滞の印 担当者と上長へ出す 確度・フェーズ・失注 判定から外す案件 次に見る日を持たせ、その日まで対象にしない
数えるところまでを機械が持ち、確度やフェーズの変更は担当者の確定を挟みます。除外した案件は通知にも一覧にも出しません。

判定を3で止めているのは、条件に当てはまったことと、案件が実際に止まっていることが同じではないためです。電話で話が進んでいて記録が残っていない場合もあります。判定の結果は「確認すべき案件」であって、状態の断定ではありません。

案件情報のどこまでを自動で更新するか

検知した内容を案件情報へ書き戻す範囲は、間違っていたときに何が起きるかで分けます。あとから直せば済む項目と、直す機会が無いまま集計へ流れる項目があります。

案件情報の項目 更新の扱い そう分ける理由
最終接触日 自動で更新 記録から機械的に決まり、解釈が入らない
直近の接触の種類と相手 自動で更新 事実の転記で、間違っても次の記録で直る
停滞している印と経過日数 自動で付ける・自動で外す 判定結果そのもの。動きがあれば自動で消える
次アクションの候補 提案として置く 担当者が採るか決める。予定として確定させない
確度 担当者が確定 売上の見込みに直結し、他部門の計画へ波及する
フェーズ 担当者が確定 後退の記録は経緯として残す必要があり、機械で書き換えない
クローズ予定日 見直しの依頼だけ出す 期日を機械で先送りすると、遅れが見えなくなる
失注・保留への変更 担当者が確定 集計の分母が変わり、あとから戻せない
担当者の変更 変更しない 引き継ぎは人が決める領域

分け方の基準は一貫しています。観測した事実は自動で書き、状態の解釈は人が確定します。 最終接触日はメールの日時から決まりますが、確度は担当者が先方の様子から判断するものです。ここを混ぜて「30日動きが無いから確度を下げる」と自動で書き込むと、翌月の売上見込みが担当者の知らないところで動きます。数字が下がった理由を誰も説明できない状態は、仕組みへの信用を早く失わせます。

フェーズの後退も同じです。止まっていることと、段階が戻ったことは違います。稟議に時間がかかっているだけの案件を機械が前の段階へ戻すと、履歴上は進んで戻ってを繰り返した案件に見えます。段階の判定条件を社内で定義していても、後退の判定は人に残す方が扱いやすくなります。

次アクションの候補までは出せます。過去のやり取りから「見積の有効期限が近い」「先方が挙げた懸念に未回答」といった材料を並べ、担当者が選ぶ形にします。候補を予定として自動登録すると、身に覚えのない予定が並び、消す作業が増えます。

通知の出し方で、読まれるかどうかが決まる

検知の精度より先に、通知の設計で結果が変わります。件数が多いと読まれず、読まれない通知は無いのと同じです。

1件ずつ送らず、まとめて出します。 停滞は緊急の事象ではないため、週の初めに一覧で受け取る形が扱いやすくなります。個別に送るのは、金額が上位で提示後の案件のように、対応の遅れが響く範囲に絞ります。

通知に「なぜ出たか」を書きます。 「最終接触から12日、見積提示後、次の予定なし」まで書いてあれば、担当者はその場で判断できます。案件名だけの通知は、案件情報を開き直すところから始まるため、対応が後回しになります。

対応の結果を戻せるようにします。 「連絡済み」「予定を入れた」「対象外にする」を一覧上で選べると、次の判定に反映できます。何も選ばれない状態が続く案件は、条件が実態と合っていない可能性が高く、基準を見直す材料になります。

上長への通知は担当者より遅らせます。 同時に届くと、担当者は対応より説明を先にすることになります。担当者へ出して数日残ったものだけを上長の一覧に載せる形にすると、確認の意味が保たれます。

停滞を拾い上げたあと、実際に連絡を取る段では先方の状況が変わっていることがあります。再開の前に外部の情報を確認する工程は 商談前リサーチをAIで自動化する で扱っている進め方が使えます。

誤検知と見逃しを、どちらも起きる前提で扱う

条件で判定する以上、両方向のずれが出ます。扱いを先に決めておきます。

ずれ方 起きる状況 対処
止まっていないのに出る 電話や対面で進行し、記録が残っていない 「対応済み」を選べる形にし、記録を残す動機を作る
止まっているのに出ない 形式的なメールだけが続いている 双方向のやり取りが無い期間を別に数える
同じ案件が出続ける 除外の仕組みが無い 次に見る日を設定し、その日まで対象から外す
全員に大量に出る 基準が一律で、全件を対象にしている 金額と確度で優先度を付け、通知は上位に絞る

誤検知は許容し、見逃しを減らす側に寄せるのが扱いやすい設定です。誤って出た案件は担当者が1行で処理できますが、出なかった案件は誰の目にも触れません。ただし許容できるのは、対応済みを選ぶ操作が軽い場合に限ります。操作が重いと、担当者は通知そのものを見なくなります。

判定の当たり方は、動かす前に過去の期間で確かめられます。半年前の案件データに条件を当て、実際に失われた案件が何日前に検知できていたかを見ると、日数の基準が現実的かどうかが分かります。判定の合格ラインをどう決めるかは AIエージェントの精度をどう評価するか の考え方が使えます。

動かし始めたあと、何を見て調整するか

仕組みが機能しているかは、検知の件数では測れません。件数は基準を緩めれば増えます。見るのは次の3つです。

  • 通知に対して何らかの対応が入った割合 … 低ければ、条件か通知の粒度が実態と合っていません
  • 止まったまま失われた案件のうち、事前に検知できていた割合 … 見逃しの多さを示します
  • 除外に指定された案件の割合 … 高すぎる場合は、基準そのものが自社の販売サイクルと合っていません

これらは案件の情報と通知の記録から数えられます。最初の1か月は基準を触らず数字を溜め、2か月目から日数を調整すると、変えた影響が読めます。毎週基準を動かすと、何が効いたか分からなくなります。

手を付ける順序

一度に全体を組まず、記録が埋まるところから進めます。

  1. 接触の記録が自動でたまる状態を作る … メールとカレンダーの接続まで。判定はまだ入れない
  2. 既存の案件へ条件を当てて、件数を見る … 通知は出さず、何件が該当するかだけ確認する
  3. 条件を営業側と合意する … フェーズごとの日数と、除外の基準を決める
  4. 一覧の表示だけ始める … 通知は出さず、一覧で確認する運用を数週間続ける
  5. 自動更新の範囲を入れる … 最終接触日と停滞の印まで。確度とフェーズは触らない
  6. 通知を出す … 対象を絞って始め、対応の割合を見ながら広げる

2で該当件数が案件全体の半分を超えるようなら、条件ではなく案件の一覧そのものに古い案件が積み上がっている状態です。その場合は判定を入れる前に、動いていない案件の整理から始めます。仕組みを載せる前に整理する必要があるかどうかは、対象業務を選ぶ段階の判断でもあり、AIエージェント開発の進め方 の対象業務の選び方が参考になります。

まとめ:商談の停滞を検知する仕組みで決めておくこと

  • 動きを数える材料は、メール・カレンダー・案件情報の更新・活動履歴に絞り、一斉配信や自動返信は接触に数えない
  • 停滞の条件は「最終接触からの日数」「次アクションの有無」「金額と確度」の組み合わせで置き、フェーズごとに日数を変える
  • 正常に止まっている案件は、次に見る日を持たせて判定から外す。除外が無いと通知が読まれなくなる
  • 自動更新は最終接触日・接触の種類・停滞の印まで。確度・フェーズ・クローズ予定日・失注は担当者が確定する
  • 通知はまとめて出し、出た理由を添える。対応の結果を戻せる形にして、基準を見直す材料にする
  • 検知の件数ではなく、対応が入った割合と、事前に検知できていた割合で調整する

Augueでは、案件情報の記録から通知までを含めた営業まわりの業務のAI化を、既存の案件管理の仕組みに合わせて設計するところから支援しています。停滞の条件をどこに置くか、自動更新をどこで止めるかで迷われている場合は、是非ご相談ください。

関連する記事

まずは現状をお聞かせください

弊社では具体的な要件が固まっていない段階でも、無料相談で現状をお聞きしていますので、お困りの際はご相談ください。

無料相談を予約する →

よくある質問

案件管理にSFAを使わず表計算ソフトで運用している場合でも組めますか?

組めますが、判定の材料が減ります。表計算ソフトには更新の履歴が残らないことが多く、最終接触日を案件の情報から取れないため、メールとカレンダーの側から日付を組み立てることになります。まず接触の記録が自動でたまる状態を作り、判定はその後に足す順序が現実的です。案件の一覧は当面そのままでも進められます。

検討を始めてから運用に乗るまで、どの工程に時間がかかりますか?

実装より、停滞と見なす条件を営業側で合意する工程が長くなりがちです。日数の基準・除外する案件・通知を出す相手が決まっていれば、メールやカレンダーとの接続と一覧の用意は短く済みます。一律の目安は出せないため、条件を誰が決めるかを先に置いたうえで、その合意に要した期間で全体を見積もる形になります。

受注しやすい案件を予測するスコアリングとは何が違いますか?

見ているものが違います。停滞の検知は起きた出来事の有無と間隔を数えるだけで、当たり外れの概念がありません。予測は過去の実績から確からしさを出すため、学習に使える件数と、入力が埋まっている前提が要ります。まず記録が埋まり停滞が見える状態を作ってから、予測を検討する順序になります。

メールの本文をどこまで読ませてよいかは、どう決めますか?

判定に必要な範囲で決めます。停滞の判定だけなら送受信の日時と相手先で足り、本文は読まなくても成立します。次アクションの候補まで出すなら本文が要るため、対象の営業アカウントの範囲、保管する期間、閲覧できる人を先に決め、情報システム部門と個人情報の扱いを含めて確認してから広げます。