商談前のリサーチにかかっている時間

商談の前に相手企業を調べる作業は、担当者によって内容も時間もばらつきます。会社サイトを開き、直近のお知らせを追い、上場していれば決算資料を見て、過去に接点があれば社内の記録を確認する。1件20分でも、週に10件あれば無視できない量になります。

ばらつきの原因は、調べる時間の長さより、何をどこまで調べるかが決まっていないところにあります。決まっていないと、余裕がある日は深く調べ、立て込んでいる日は会社サイトを開いただけで商談に入ります。準備の差は最初の10分に出ますが、後から見返しても何を調べて何を調べなかったのかが残っていないため、次の商談に生かせません。

自動化で扱えるのは、決めた出どころを巡って集める作業と、集めた内容を毎回同じ形に並べる作業です。並べた材料から提案の切り口を決める部分は残ります。この線引きを先に決めておかないと、出てきた長い文章を読んで担当者が「使える内容が入っているか」から判断することになり、準備の時間はあまり変わりません。

出どころごとに、確認できることを決める

集める項目から考えると、公開情報では埋まらない欄が残ります。先に決めるのは出どころです。どこを見るかが決まると、そこで確認できる内容と、確認できない内容が自然に分かれます。

出どころ そこで確認できること 鮮度の扱い
会社サイトの会社概要 所在地、設立、資本金、拠点、役員 更新が止まっていることがある。日付の記載が無ければ他の出どころと突き合わせる
サービス紹介のページ 売っているものと想定している顧客、価格を公開している範囲 現行の主力が分かる。提供を終えたサービスのページが残る場合がある
お知らせとプレスリリース 新サービス、提携、組織変更、資金調達 日付が付く。取得する期間を決め、範囲外は現状の記述に使わない
決算説明資料と有価証券報告書 事業別の売上構成、会社自身が経営課題として挙げている項目 上場企業に限る。参照した期を必ず記録する
採用ページと求人票 増やそうとしている職種、使っている業務システム、組織の構え 掲載が長く残ることがある。掲載日を確認する
導入事例やパートナーの一覧 取引のある製品や会社 掲載時点の事実に留まる。現在も使っていると書かない
業界メディアの記事 発表の背景、経営層の発言 一次情報かどうかを分ける。二次情報は元の発表まで辿る
社内のCRMと過去の商談記録 過去の接点、以前の検討理由、決裁に関わった人 社内で最も確度が高い一方で古くなる。担当者の異動で前提が変わる

決算資料は情報量が多い一方で、上場企業に限られます。非上場企業では、採用ページが実質的に一番情報の多い出どころになることがあります。募集している職種の構成や、必須スキルに書かれた業務システムの名前から、どこに人を投じているかが読めます。ただし求人は掲載が長く残るため、掲載日を確認せずに現状として扱うと、1年前の体制の話を今の話として持ち込むことになります。

導入事例やパートナー一覧の扱いは特に間違えやすい箇所です。「ある製品の導入事例に相手企業が載っている」は掲載時点の事実ですが、「現在その製品を使っている」は別の記述です。前者だけを資料に残し、現在の利用状況は商談で確認する項目に回します。

出どころの一覧を決めるときは、取得してよいかどうかも先に確認します。会社サイトのrobots.txtや、媒体の利用規約で自動取得が禁じられている場合は対象から外します。取得の間隔を空け、名乗って取ることも合わせて決めておきます。

変わりにくい情報と、変わる情報を分けて置く

集めた内容を1つの文章にまとめると、5年変わっていない事業内容と、先週のプレスリリースが同じ調子で並びます。読む側は、どこが今の話なのか判断できません。資料の上では3つに分けます。

事業の構えは、何を売っていて、どこに売っていて、どういう体制で回しているか。年単位でしか変わらないため、一度作ればしばらく使えます。同じ企業への2回目の商談では、この部分を作り直す必要はありません。

直近の動きは、期間を決めて取ります。直近6か月なり12か月なりを決め、その中の発表だけを並べます。範囲内に何も無ければ「発表なし」と書きます。空欄と「無かった」は読む側にとって別の情報です。

想定される課題は、集めた内容から組み立てた見立てです。発表内容や求人の構成から「人手の確保に苦労している可能性がある」と書くのは商談の準備として有効ですが、確認済みの事実ではありません。事実の欄と混ぜず、商談で確かめる項目として別に置きます。この欄がそのままヒアリングの項目になります。

課題の見立てを事実の欄に混ぜると、商談の場で前提が崩れます。「御社は人手の確保に課題があるとお聞きしていて」と切り出したあとに「特に困っていません」と返ると、そこから軌道修正する時間を使うことになります。見立てとして持っていれば「採用を増やしている領域があるように見えましたが」という確認の形で聞けます。

AIがまとめる範囲と、営業が決める範囲

工程を分けると、機械に渡せる範囲がはっきりします。集めて束ねて検査するところまでが機械の側、そこから先が担当者の側です。

商談の予定から準備資料の作成、担当者が提案の切り口を決めるまでの流れ 商談の予定を受け取り、決めた出どころを巡って情報を集め、記述ごとに出典と日付を付けて束ねる。鮮度と食い違いを検査してから準備資料を組み、担当者が提案の切り口を決め、確かめる項目を選んで商談で確認する。確認できた事実は材料の側へ戻す。 機械が処理する 人が判断する 1. 予定を受ける 2. 集める 3. 出典を付ける 4. 検査する 5. 資料を組む 6. 切り口を決める 7. 確かめる項目 8. 商談で確認 商談の登録が合図 決めた出どころだけ 記述ごとに日付も 鮮度と食い違い 同じ並び順で出す 何を提案するか 見立てから選ぶ 聞いた内容を残す 材料の置き場に戻す 確認が取れた事実と、外れていた見立て
検査を資料の作成より前に置き、期間の外にある発表や照合できない記述を先に落とします。商談で確認が取れた内容は材料の側へ戻し、次の準備で使えるようにします。

提案の切り口を機械に決めさせない理由は、判断の材料が資料の中に無いことです。切り口は相手の状況だけでは決まらず、自社が今どの商品を伸ばしたいか、この案件をどの規模で取りたいか、担当者が過去の商談で何を感じたかが入ります。資料に載っていない前提で決まる部分を機械に任せると、もっともらしい方向を選ばれ、担当者はそれを直す作業から始めることになります。

一方で、切り口を決めた後の作業は再び機械に渡せます。決めた方向で提案書の下書きを組む工程は 提案書作成をAIで自動化する で扱っている範囲で、そこでは集めた材料が下書きの素材になります。商談の後に記録を残す工程も同じで、商談メモの入力をAIで自動化する の側につながります。準備・提案・記録は別々の仕組みに見えますが、材料と出典を共有できると重複した作業が減ります。

出どころを残す形を決める

リサーチの自動化で起きる事故の多くは、集めた内容の誤りより、その内容がどこから来たのか分からなくなることです。集める段階では出どころが付いていても、要約を経る過程で落ち、商談の場で「それはどこの情報ですか」と聞かれて答えられなくなります。

URLを1本添えるだけでは足りません。記述ごとに次を持ちます。

  • 参照したURL
  • そのページのどこに書かれていたか(該当箇所の短い引用)
  • いつ時点の情報か(ページに書かれた日付。無ければ取得した日)
  • 公式の発表か、第三者の記事か
  • 決算資料のように版が変わるものは、参照した期や版

引用を短く持っておく効果は2つあります。1つは、資料の記述が出どころに実際に書かれているかを機械で照らせること。もう1つは、後からページの内容が変わったときに、何が変わったのかが分かることです。

出どころが付かない記述は、消すのではなく見立ての欄へ移します。裏づけが取れなかっただけで、確認する価値がある内容は含まれます。移した先を商談のヒアリング項目として渡す形にすると、裏づけの取れなかったことが次の情報収集の入口になります。

古い情報と誤りに気づく形にする

集めた内容が間違っていること自体は避けられません。避けられるのは、間違いに気づかないまま商談に持ち込むことです。誤りには型があるため、型ごとに照合の手を決めておきます。

起きやすい誤り 気づくための照合 気づいたときの扱い
名前の似た別の会社の情報が混ざる 本店所在地と、出どころのドメインが一致するかを見る 一致しない出どころは束から外し、確認できたものだけ残す
子会社やグループ会社の内容を1社のものとして書く 出どころに書かれた法人名と、対象の法人名を突き合わせる どの法人の情報かを併記する。まとめて1社として扱わない
数年前の発表を現在の状況として書く 記述ごとに日付を持ち、決めた期間の外にあるものを落とす 期間外は履歴として別枠に置き、現状の記述には使わない
決算の期がずれた数値を並べる 参照した期を記録し、並べる数値の期が揃っているか見る 期を明記する。揃わない数値を同じ表に並べない
出どころに書かれていない内容が要約に入る 記述と、保存した該当箇所の引用を照らす 照合できない記述は事実の欄から外し、見立ての欄へ移す
参照したページが消えている 保存したURLへ到達できるかを確認する 到達できない記述は、商談で確認する項目に回す

上の3行は、機械が間違えたというより、集める段階で対象の企業を取り違えている場合です。企業の特定は最初の工程で固め、社名の文字列だけで探しに行かせないようにします。社名の表記が揺れる企業もあるため、対象を確定する情報(正式名称と本店所在地、公式サイトのドメイン)を先に持ち、それと一致しない出どころは使わない形にします。

下の3行は、集めた後の処理で起きるものです。ここは機械で照らせるため、資料を組む前の検査として入れます。検査で落ちた記述を捨てずに残しておくと、どの出どころで照合が通らないことが多いかが分かり、出どころの一覧を見直す材料になります。

なお、社内の記録を材料に加える場合は、社内文書をどう検索させるかの設計が別に必要になります。方式の選び方は RAGとファインチューニングの違い で扱っています。

成果物の形を先に決める

資料の形が毎回変わると、読む側は毎回どこに何が書いてあるかを探します。項目と並び順を固定します。

商談の直前に読むものなので、長さの上限も決めます。項目を全部埋めようとすると読み切れない量になるため、事実の欄は要点だけにし、詳細は出どころへのリンクで辿れるようにします。読む時間は数分で足りる長さが目安になります。

空欄の見せ方も決めておきます。予算の規模、決裁の流れ、競合が入っているかは公開情報では分かりません。ここを空欄のまま出すか、「公開情報では確認できない」と書くかで、読む側の受け取り方が変わります。後者にしておくと、調べていないのか、調べた結果として無いのかが分かります。埋まっていると商談の設計に使われる項目ほど、推測で埋めない形を徹底します。

商談の予定から自動で動かす

準備の仕組みは、担当者が思い出して起動する形だと使われなくなります。商談の予定が入った時点、あるいはCRMに商談が登録された時点をきっかけにして、前日までに資料が届く形にします。

同じ企業への2回目以降は、前回の資料を作り直さずに差分を出します。事業の構えは変わっていない前提で、前回の作成日以降の発表と、社内の記録に増えた内容だけを更新します。全部を作り直すと、前回と表現が変わるだけの差分が出て、どこが新しいのか分からなくなります。

対象を全商談に広げるかどうかは、準備にかけている時間の分布で決めます。既に関係がある企業への定例の商談では、公開情報を調べ直す価値は小さいことがあります。新規の商談と、久しぶりに接点が戻った企業に絞ると、費用に対して効きやすくなります。

短くなる作業と、短くならない作業

準備の時間が減るのは、決まった出どころを開いて読む作業と、集めた内容を並べ直す作業です。時間の大半がここに入っている担当者では、作業として体感できる差になります。

短くならないのは、資料を読んで提案の方向を決める部分と、商談で確認する項目を選ぶ部分です。この2つは資料が整っても時間がかかります。むしろ、材料が揃った分だけ考える時間が取れるようになる、という形の変化になります。

効果の測り方も先に決めておきます。準備の時間だけを見ると、材料が増えて読む時間が伸びた場合に悪化して見えます。準備の時間と併せて、準備をせずに商談に入った件数や、商談後に確認した項目がどれだけ埋まったかを見ると、変化の向きが分かります。測り方の組み方は AI導入の効果測定と効果検証 を参照してください。

最初に切り出す範囲

全部を一度に作らず、出どころを2つか3つに絞って始めると、資料の形と検査の要否を早く確かめられます。会社サイトと、直近のお知らせ、社内の商談記録の3つで、事業の構えと直近の動きは埋まります。

次に足すのは、担当者が実際に開いている出どころです。手元の準備で何を見ているかを聞くと、決算資料より求人を見ている、業界メディアの特定の連載を追っている、といった実態が出てきます。使われていない出どころを増やすより、使われている出どころを先に自動化した方が、資料が読まれるようになります。

開発の進め方と見積の考え方は AIエージェント開発の進め方 にまとめてあります。対象の業務を絞る段階から順に見ていく形になります。

まとめ:商談前リサーチの自動化で決めておくこと

  • 準備のばらつきは時間の長さではなく、何をどこまで調べるかが決まっていないことから生まれる。出どころと項目を固定するところから始める
  • 集める項目より先に出どころを決める。決めると、そこで確認できることと、公開情報では確認できないことが分かれる
  • 資料の中では、変わりにくい事業の構えと、期間を決めて取る直近の動きと、集めた内容からの見立てを分けて置く
  • 見立てを事実の欄に混ぜない。見立ての欄はそのまま商談で確かめる項目として使う
  • 提案の切り口は担当者が決める。自社の商品戦略や案件の位置づけは資料の中に無く、機械が判断する材料がない
  • 記述ごとに、URL・該当箇所の引用・日付・一次情報かどうかを残す。要約の過程で出どころが落ちる形にしない
  • 誤りは型で押さえる。企業の取り違えは最初の工程で、期のずれや照合できない記述は資料を組む前の検査で落とす
  • 出どころのrobots.txtや利用規約を確認し、取得の間隔を空け、名乗って取る。読めない出どころは対象から外す
  • 資料は項目と並び順を固定し、数分で読める長さにする。空欄は「公開情報では確認できない」と書き分ける
  • 商談の予定やCRMの登録をきっかけに動かし、2回目以降は差分だけ更新する。全部を作り直すと新しい部分が埋もれる

Augueでは、公開情報や社内の記録を集めて営業が読める形に整えるAIエージェントの開発に対応しており、どこまでを自動でまとめ、どこから先を担当者が判断するかの線引きから一緒に設計できます。自社の商談準備を対象にできるか確かめたい方は、是非ご相談ください。

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決めた切り口から提案書の下書きを組む側は 提案書作成をAIで自動化する、商談の後に記録を残す側は 商談メモの入力をAIで自動化する、社内文書を材料に加えるときの方式の選び方は RAGとファインチューニングの違い、同じく外部の情報を集めて比較できる形に整える型は 候補者ソーシングをAIで自動化する、開発の進め方と見積は AIエージェント開発の進め方、効果の測り方は AI導入の効果測定と効果検証 を参照してください。

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よくある質問

生成AIサービスの調査機能に「この会社を調べて」と指示するのとは何が違いますか?

一度だけ調べるなら大きな違いは出ません。差が出るのは毎週何十件も準備するときで、集める出どころと項目が指示のたびに変わると、担当者は毎回どこまで信じられるかから読み始めます。出どころを固定し、同じ並び順の資料が届く形にすると、読む側は差分だけを見れば済みます。出典の記録が残るかどうかも分かれ目になります。

海外に本社がある企業や、日本語の情報が少ない相手でも成立しますか?

出どころの構成が変わるだけで、考え方は同じです。日本法人のサイトは情報が薄く、本社側の発表に実質的な内容が載ることがあるため、どちらの法人の情報かを分けて持つ必要が出ます。訳した文章をそのまま資料に載せると、原文の表現との差が確認できなくなるので、原文の該当箇所も併せて残しておくと商談の場で確かめられます。

出どころのページ構成が変わったときは誰が直すのですか?

会社サイトの改装や求人媒体の仕様変更で取得が止まるため、保守の担当を決めておく必要があります。取得できなかった出どころを黙って空欄にせず、取得に失敗した事実が資料に残る形にしておくと、気づく人が担当者になります。特定の書式に依存する取得を減らし、失敗しても他の出どころで資料が成立するようにしておくと、直すまでの猶予が生まれます。

まとめた内容はCRMやSFAへ書き戻した方がよいですか?

商談の前に読む資料と、社内に残す記録は寿命が違います。公開情報からの見立てをそのまま顧客情報として保存すると、確認していない内容が社内の共有情報として扱われます。書き戻すなら、商談で確認が取れた事実に限り、見立ての段階のものは商談の準備資料の側に置いておく形が扱いやすいです。