総務の仕事は、部署単位ではなく工程で切る

総務には、社内の誰からでも用件が届きます。設備や備品のこと、規程の解釈、申請書の書き方、来客や郵便の扱いまで、内容の幅が広い一方で、担当者は数人しかいないことが多い部署です。1件あたりの作業は短くても、種類が多いために日中が細切れになります。

この状態で「総務の業務をAIで自動化する」と考えると、対象が決まりません。総務の仕事は業務名で並べても粒度がそろわず、同じ「問い合わせ対応」の中に、規程を見れば済むものと、個別の事情を聞かないと答えられないものが混ざっているためです。

分ける単位は、業務名ではなく工程です。ここでは総務に集まる仕事のうち件数の多い3つを取り上げ、工程ごとに任せられる範囲を見ていきます。

3つの業務で、任せられる工程と人が持つ判断

まず全体像を1つの表にします。

業務 機械に寄せられる工程 人が確定させること
社内からの問い合わせ 質問から該当する規程や手引きの箇所を引き、原文と出典を添えて返す 記述が無い件への回答、例外の可否、個別の事情を聞き取る対応
規程・マニュアルの改訂 改訂前後の差分の整理、影響を受ける他文書の洗い出し、改訂履歴と周知文の下書き 改訂内容そのもの、施行日、決裁、周知の実施
備品・消耗品の発注 在庫と発注点の照合、発注候補の一覧化、見積の比較表づくり、発注書の下書き 単価の変更を伴う発注、新規の品目、一定額を超える支出

3行に共通するのは、調べる工程と下書きを作る工程が機械側にあり、確定させる工程が人側にある点です。総務の仕事は社内の他部署が前提として使うため、間違いがそのまま他部署の作業のやり直しになります。確定を人が持つ形を崩さないほうが、結果として運用が続きます。

以下、行ごとに理由と、実際にどこで切るかを見ていきます。

社内からの問い合わせは、規程を根拠に引く

総務に届く質問は、答えが既存の文書に書かれている割合が高い部類です。慶弔の手続き、申請の締切、備品の貸し出し、施設の使い方といった質問は、規程や手引きの記述をそのまま示せば用が足ります。

そのため、質問文を受け取って該当箇所を検索し、原文と出典を添えて返すところまでを仕組みに寄せられます。要約だけを返す作りにはせず、どの文書のどの節に書かれているかを必ず添えます。受け取った人が自分で確かめられ、後から経緯を追えるためです。

一方で、次の質問は担当者へ渡します。

  • 扶養や住所変更のように、個人の状況を台帳で確認しないと答えられないもの
  • 例外の許可や費用の発生を伴い、決裁が必要なもの
  • 該当する記述が文書に無く、判断そのものが新しいもの

3つ目が最も重要です。根拠が見つからないときにそれらしい文章を返す作りにすると、誤った案内が社内に広まります。「見つからなかったので担当者へ回します」と返す動作を、失敗ではなく正常な結果として設計します。渡した先で決めた内容は、次から答えられるように文書へ書き足します。

問い合わせの内訳をどう数え、何割を寄せられるかを見積もる手順は「社内問い合わせ対応のAI自動化」で詳しく扱っています。総務の場合は情報システムへの問い合わせと違い、参照先がシステムの設定値ではなく規程であることが多いため、文書側の整備がそのまま回答できる範囲になります。

規程やマニュアルの改訂は、下書きまでを任せる

改訂の作業は、実際には調べる時間のほうが長くかかります。どこを直すかを決めるより、直したときに他のどの文書が食い違うか、いつから適用するか、誰に知らせるかを確かめる部分に時間を使います。この調べる部分は任せられます。

任せられるのは次の工程です。

  • 改訂前後で何が変わったかを、文言の差分ではなく内容の変化として整理する
  • その規程を参照している他の規程、マニュアル、申請書の様式を洗い出す
  • 改訂履歴の記載と、社内へ送る周知文の下書きを作る

一方、改訂の内容そのものを機械に確定させない理由は、規程が社内の権利義務を定める文書だからです。就業に関する規程であれば従業員の待遇に直結し、変更の手続きや周知の義務が法令で定められています。文面が読みやすくなったかどうかではなく、決めた内容が正しいかどうかが問われる文書であり、その判断は所管部署が持つ必要があります。

もう1つの理由は、施行日と経過措置です。「いつから適用し、それまでに出された申請をどう扱うか」は、社内の状況を見て決めるもので、文書からは導けません。ここを機械が埋めると、もっともらしい日付が入った改訂案が回ってしまいます。

改訂の工程をどう分け、現行版の特定や履歴の残し方をどう設計するかは「社内規程・マニュアルの改訂管理をAIで回す」にまとめています。

備品と消耗品の発注は、判定と下書きまで

発注の工程は、次のように並びます。

  1. 在庫を記録する
  2. 発注点を下回った品目を洗い出す
  3. 発注する数量を決める
  4. 見積を取り、価格を比べる
  5. 発注する
  6. 納品を確認し、支払いへ回す

このうち2と4は機械が得意な部分です。発注点との照合は条件で決まるため、生成AIを使うまでもなく通常のプログラムで済みます。書式の違う見積書から品目と単価を取り出して並べる部分は、形が決まっていないため生成AIが向きます。工程ごとに、通常のプログラム・AI・人の承認のどれに割り当てるかという考え方は「AIエージェントにどこまで任せるか」で整理しています。

人が確定させるのは5です。金額が発生する行為であり、間違えたときに社外への発注として実行されてしまうためです。ただし全件を人が見る必要はなく、条件で分けられます。

発注の内容 判断の材料 扱い
定番品を、前回と同じ単価で、いつもの数量 過去の発注履歴と一致するか 担当者へ一覧で提示し、まとめて承認する
定番品だが単価が前回と違う 差額が説明できるか 見積を添えて提示し、1件ずつ確認する
初めて買う品目 社内に代替品が無いか 人が選定する。機械は候補の一覧までにする
一定額を超える支出 社内の決裁基準 決裁の手続きに乗せる。自動では進めない
契約で数量が決まっているもの 契約条件との整合 契約内容を確認してから判断する

1行目を「まとめて承認」にできるかどうかが、負荷の差になります。定番品の補充は件数が多く、1件ずつ確認していると発注点の判定を自動化した効果が消えます。過去の発注と一致することを条件に一覧で出し、担当者が目を通して一括で確定させる形にします。

3つに共通する流れを1つの形にそろえる

3つの業務は内容が違いますが、工程の並びは同じ形に収まります。総務のように担当者が少ない部署では、業務ごとに違う仕組みを持つと運用しきれないため、同じ形にそろえておくほうが扱いやすくなります。

総務の3つの業務に共通する、受け取ってから記録に残すまでの流れ 問い合わせ、改訂の依頼、在庫の減りを受け取り、規程や履歴を調べて下書きを作る。根拠を示せる場合は担当者が確定させて記録に残し、根拠を示せない場合は担当者が調べて決め、その結果を文書へ書き足す。 機械が処理する 人が判断する 受け取る 調べる 下書きを作る 人が確定させる 担当者が決める 記録に残す 質問・改訂の依頼・在庫の減り 規程と過去の履歴 回答案・改訂案・発注の候補 承認と決裁 決めた内容を文書へ書き足す 回答・改訂履歴・発注履歴 根拠を示せない場合
3つの業務は同じ形に収まる。
受け取ってから下書きを作るまでを機械に寄せ、確定は人が持つ。
根拠を示せなかった件は担当者が決め、その結果を文書へ書き足して次から答えられるようにする。

最後の「記録に残す」を省かないことが、総務では特に効きます。誰にどう答えたか、どの版から何が変わったか、いつ何をいくらで買ったかは、後から問われる情報です。仕組みを通した分だけ記録が自動でそろう形にしておくと、監査や引き継ぎのときに探す作業が減ります。

どの順で着手するか

3つを同時に始めると、どれも中途半端になります。順序は次の3つの軸で決めます。

見る軸 何を確かめるか 順序への効き方
件数 1か月に何件発生しているか 件数が少ない業務は、作る手間に見合わない。後回しにする
根拠になる文書の状態 参照する文書が1か所にまとまっていて、最新版が分かるか 散らばっているなら、その業務より先に文書の整理をする
間違えたときの戻しやすさ 誤りが出たときに、その場で訂正できるか 社外への発注や規程の確定のように戻しにくいものは、後の段階に置く

この3つを当てはめると、多くの場合は問い合わせ対応が先に来ます。件数が多く、誤った回答が出ても担当者がその場で訂正でき、進めるほど文書の不足も見えるためです。次に備品の発注、最後に規程の改訂という並びになりやすいのは、戻しやすさの順がそのまま逆になっているからです。

ただし2つ目の軸で引っかかることがあります。規程やマニュアルが部署ごとの共有フォルダに分かれ、どれが最新版か分からない状態であれば、問い合わせ対応から始めても答えられない質問が並びます。その場合は文書の置き場所と版の管理を先に片付けます。手順は「社内の文書管理をAIエージェントで回す」にまとめています。

対象を決めたあと、要件の整理から本番で動かすまでをどう進めるかは「AIエージェント開発の進め方」を参照してください。

少ない人数で運用を続けるための決めごと

作ったあとに手を入れる人がいないと、半年で使われなくなります。総務は担当者が少ないため、運用の負荷を先に決めておきます。

答えられなかった質問を記録する。 件数と内容が分かれば、どの文書を書き足すべきかが決まります。記録が無いと、感覚で機能を足すことになります。

文書ごとに更新の担当を1人決める。 複数人で共有すると、誰も直さない状態になります。文書を増やすことより、この割り当てのほうが後々効きます。

月に1回、記録を見る時間を取る。 30分でかまいません。答えられなかった質問の上位、発注で差し戻された件、改訂案で直した箇所を眺めると、次に手を入れる場所が分かります。

効かなかったものは止める。 3つのうち1つが使われないまま残っているなら、対象の選び方が合っていません。件数を数え直して、別の業務へ切り替えます。

まとめ:総務の業務をAIエージェントへ切り出すときの要点

  • 業務名ではなく工程で切る。同じ「問い合わせ対応」の中に、文書を見れば済むものと個別の事情を聞くものが混ざっている
  • 3つの業務に共通して、調べる工程と下書きを作る工程を機械に寄せ、確定させる工程は人が持つ
  • 問い合わせは、原文と出典を添えて返す。根拠が見つからないときは答えずに担当者へ渡し、決めた内容を文書へ書き足す
  • 規程の改訂は、差分の整理と影響範囲の洗い出しまでを任せる。改訂内容と施行日、決裁は所管部署が確定させる
  • 備品の発注は、発注点の判定と見積の比較まで。定番品の補充は一覧でまとめて承認し、単価の変更や新規の品目は1件ずつ見る
  • 着手の順序は、件数の多さ、参照する文書の状態、間違えたときの戻しやすさで決める。文書が散らばっているなら整理が先
  • 答えられなかった質問を記録し、文書ごとに更新の担当を1人決める。月に1回記録を見る時間を取る

Augueでは、社内問い合わせや文書の管理、発注まわりの業務を対象に、どの工程を任せてどこを人が確定させるかを整理したうえで、AIエージェントの設計と構築を支援しています。総務のように担当者が少ない部署でどこから着手するかを含めて検討したい方は、是非ご相談ください。

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よくある質問

総務の業務をAI化するとき、主管は総務と情報システムのどちらが持つべきですか?

業務の内容を決めるのは総務、動かす基盤とアカウント管理は情報システム、という分け方が続けやすいです。どの質問に何と答えるか、どの金額から人が決裁するかは、業務を持つ側でないと決められません。逆にツールの選定や権限の設定を総務だけで進めると、退職者のアカウントが残るような管理の抜けが出ます。担当を1人ずつ出して、決める範囲を書き分けておきます。

費用と期間はどれくらい見ておけばよいですか?

一律の金額は出せません。対象の業務数、参照する文書の量、既存の購買システムや勤怠システムとつなぐかどうかで変わります。見積を比べるときは、文書を整える作業が誰の担当として入っているか、公開後に回答の記録を見て直し続ける費用が含まれているかを確認します。この2つが抜けた見積は、動き出してから追加になります。

既製のワークフローSaaSや申請システムでは足りないのですか?

申請と承認の流れが決まっている業務は、既製のシステムのほうが早く安く回ります。AIエージェントが向くのは、届く文章の形が決まっていない工程です。自由に書かれた質問から意図を読む、書式の違う見積を並べる、といった部分が該当します。既存の申請システムを置き換えるのではなく、その手前の受け付けと下書きに当てる形が現実的です。

総務の担当者が1人しかいない場合でも作る意味はありますか?

1人体制では、担当者が休んだときに業務が止まる点が問題になります。よく届く質問への回答と、備品の発注条件が仕組みの側に書き出されていれば、代わりに入った人が同じ答えを返せます。工数の削減より、業務の内容が1人の頭の中だけに残らないことのほうが効きます。ただし作る作業自体に時間がかかるため、対象は1つに絞ります。

派遣社員やアルバイトが問い合わせの一次対応をしている場合、置き換えることになりますか?

置き換えを前提にしなくても成り立ちます。文書を探して同じ説明を返す部分を仕組みへ寄せると、残るのは個別の事情を聞き取る対応と、記述が無い件への判断です。一次対応をしている人の役割を、答えを探す作業から、答えられなかった件を文書へ書き足す作業へ移すと、対応できる範囲が広がります。